(5)
トーザ・ノヴァとシアンレイナ・レッドパージが二人して必死の思いで、気詰まりな沈黙を避けるべく花瓶に生けられた花やテーブルに並べられた豪華で高価な食器についてなど、どうでもいいような話題をつなぎ合わせて何とか会話を続けているところへ、ようやくチャーリー達が入って来た。
「すっかり待たせてしまったな」
ゴールドウィン・レッドパージが妹に快活な笑顔を向ける。
「あー、ハラ減った…メシにしようぜ、メシに!」
「メシはないだろ、ヴァシル…姫様の誕生パーティーだぜ」
ラルファグが苦笑する。
双子の弟のぞんざいな口のきき方にギルバーが苦いカオを見せたが、ラルファグは気づかなかった。
「おや? サイト殿とアシェス殿はどうされたのでござるか」
「ああ」
目ざとく気づいたトーザの問いに、チャーリーは涼しい顔で応じる。
「アシェスは頭が痛いんだって」
決して嘘ではない。
「サイトは胃が痛いみたい」
事実かもしれない。
「まあ、それは…」
「大丈夫なんでござるか?」
事情を知らない二人が表情を曇らせる。
「お心遣いいただき、感謝します。シアンレイナ姫」
サースルーン・クレイバーがさっと進み出て口を開いた。
「いえ…あの、もしかしてお加減がよろしくないのをおしてご出席下さったのでは…?」
「そのようなことはありません、ご心配は無用です。サイトはすぐこちらへ戻って来ることと」
「アシェス皇子もそれほどひどそうなご様子でもなかったからな。お二人ともじき食堂まで来られるだろう」
サースルーンもゴールドウィンも大した役者ぶりである。
「しかし、お兄様…」
「大丈夫だって! よしっ、腹一杯食うぞッ!」
姫君の心配そうな声はヴァシルの能天気な声にかき消されてしまう。
トーザとシアンレイナは何となく顔を見合わせた。
ヴァシルがうっかりと口を滑らせて計画をバラしてしまうことを危惧していたチャーリーだったが、何か食べさせてさえおけば余計なコトを言う心配もなさそうだ。ヴァシルの口は喋るよりも食べることの方が数十倍は好きなようだから。
「よっぽど空腹なのだな、ヴァシル・レドア。それでは料理を運ばせよう」
ゴールドウィンが早速侍女達を呼びつける。
「サイトが胃痛でアシェスが頭痛」といういかにもとってつけたような説明で、シアンレイナ姫はともかくとしてトーザ・ノヴァが納得しただろうかとギルバーはふと疑問に思った。
あからさまに怪しいハズのその説明は、サースルーンやゴールドウィンの平然としたフォローのおかげで実は立派に通用していたりする。