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世界の中心、ラゼット大陸。大陸のほぼ中央に位置する人間族の街、王都は華やいだ雰囲気に包まれていた。
通りに並ぶ商店は明るい色をふんだんに用いた祭事用の飾りつけを店舗の外壁や店内のあらゆる棚に施し、道行く人々は質素な普段着ではなく華美ではないが見栄えの良いよそゆきの衣服で身を包んでいる。すれ違う度に誰もが明るい声と朗らかな笑顔を交わし合う。
広場には楽器を携えた吟遊詩人ととっておきの芸を仕込んだビーストを連れたビースト・マスターが集まり、それぞれの技を披露しては観客の惜しみない喝采を浴びている。
世界で最も多くの人間が住まうこの街のあらゆる場所に、祝祭特有の晴れやかな空気が満ちていた。
今日はシアンレイナ・レッドパージの誕生日。
現在人間族の統率者であるゴールドウィン・レッドパージの妹にして、『奇跡の美姫』の誉れ高い彼女がこの世に生を受けた今日という日を、王都の住人は街をあげて祝っているのだ。一般市民に対する王族の挨拶は午前中に既に済まされ、その他には公式のイベントなど準備されていないのだが、正午を回っても王都全体に満ちた浮かれた気分はまだまだ消えそうにない。
善竜人間族や邪竜人間族のように竜に変身する能力を持たず、狼人間族のように優れた方向感覚や嗅覚もなく、エルフの底知れぬ魔法の力には足下にも及ばない。他種族と比較すれば劣っているところばかり目立ちがちな人間族が、自分達の誇りとして口に出来る数少ないもののひとつが、シアンレイナ姫の類い稀な美しさである。
シアンレイナは姿かたちばかりではなくその心も非常に清らかであり、現行王家の血を引く人間であるからといって他人を見下す態度をとることは決してなく─もっとも、これは兄のゴールドウィンにしても兄妹の父である先代の王にしても同様であったが─裏表のない優しさと謙虚さとで種族を問わず誰からも愛された。
今日は幸福な姫君の、幸福な誕生日である。
物語はそのような日の昼下がり、王都の王城にて幕を開ける。
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