第10章−5
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(5)

 ラーカとカディスは困惑して顔を見合わせた。

 …どうしよう。

 現在位置は城の表口からも裏口からもかなり離れている。
 窓も手近にはない。
 ジュナ一人ぐらいならどうとでも出来るが、他の番兵達が…。

 なんてなことを考えているうちに、重々しい足音が近づいて来て、角から兜を深く被った騎士の一人が現れた。
 右手には抜き身の鋼鉄の剣を携えている。
 刀身の鈍い光に脅えて、リンドは泣きそうな顔でラーカの背中にすがりついた。

「ああ、アナタ、ちょうどいい所へ来てくれたわ。この方達、くせ者よ。捕まえておしまいなさい」

 アゴをしゃくるようにして指図する。
 騎士は無言でうなずくと、ラーカ達の方に向き直った。
 リンドが身を縮める。
 カディスは腰に提げていたナイフに手をやった。

 ダメでもともとだ。
 上手く鎧の隙間を刺せれば…。

 それを、ラーカが片腕を伸ばして遮った。
 カディスが虚を突かれたように顔を上げ、前髪の間から瞳を向ける。

「アイツらの言ってたことは本当だったみたいだな」

 ラーカは険しい顔でさっきから一言も口をきこうとしない騎士を見つめていた。
 その表情に不意に激しい怒りと、リンドやカディスが今まで一度も見たことのない、ぞっとするような嫌悪の色が浮かぶ。

「ラーカ?」

「心配すんな…オレの勝ちだ」

 ヤケにハッキリとした声でラーカは言い切った。
 物音一つない廊下に響いたその言葉を聞きつけて、ジュナがムッとしたように詰め寄ろうとする。
 彼女が一歩踏み出す前に。

「ジュナを押さえてろ!」

 騎士の顔−兜に隠された目の辺り−に鋭い視線を据えて一喝する。
 途端、騎士はくるりとラーカ達に背を向け、ジュナの方へ近づいて行く。

「えッ?! ちょ、ちょっと、何よアナタ! どうなってるのよ?!」

 青くなって後退りし始めるジュナを見て、ラーカは口許に勝ち誇った微笑を見せながら言い放つ。

「オレは邪竜人間族随一のネクロマンサーだぜ。そいつを動かしてるのが誰かは知らんが、死体操作の術でオレにかなう奴はこの世にはいないんだよ」

 騎士はジュナを片腕に捕らえると、悲鳴をあげて助けを求めようとした彼女の口をすかさずもう一方の手で塞いだ。
 ジュナは真っ青になってラーカ達に目を向ける。

「すっごぉい! おにいちゃん、便利ィ!」

 リンドが控え目にはしゃいだ声をあげる。

「…とすると、残りの四人もアンデッド兵士ってコト…らしいな…」

 静かな声でカディスが呟く。
 一通りの説明はラーカから聞いてあったが、実物のアンデッドを目にするとさすがに少なからず動揺してしまう。

 『痛みも苦しみも感じない最強の兵士』…そんなものを作るために、仲間が大量に殺されているのかもしれないのだ。
 それは到底許せることではない。
 ラーカの瞳に現れたあの激しい色の意味も、理解することが出来た。

「安心しろ、ジュナ。今は殺しゃあしねぇよ。───オレ達がこの城から出るまでそいつを押さえてるんだ、わかったな」

 今や完全にラーカの支配下にある騎士は無言でうなずきを返した。

「よし、今のうちだ。行こうぜ!」

 三人は一気に階段のある場所まで駆け寄った。
 まだ残っていた四人の騎士がそれぞれの武器を構えるべく身体を動かしかけたが、

「武器を下ろしてじっとしてろ!」

 …ラーカの一声でたちまち石像のように動かなくなってしまう。

「大したもんだな」

 階段の周りで静止したアンデッド騎士達を見て感想の言葉を漏らしつつも、カディスは地下へと降り始めていた。
 リンドを先に行かせ、後ろから新手の敵が来ていないことを確認してから、ラーカも地下牢へと石段を下り始める。

 十数段降りたところで外の光は地下に届かなくなった。
 鼻をつままれてもわからないような漆黒の空間がいきなり先頭を進んでいたカディスを囲む。

「ちょっと待て。明かりが要る」

 後ろに声をかけてから、階段の上で足を止め、カディスは照明魔法の呪文を唱えた。

「ディルシマ・バイト・アルカプトン・ケープ」

 魔法の光が暗黒を切り裂き、長く伸びた階段のかなり先の方まで一瞬に照らし出す。

 三人はまた先を急いだ。

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