第10章−4
(4)
カディスは注意深く、そして適確に道を選びタイミングを計って、ラーカとリンドを地下牢に続く階段のある場所へと導いて行く。
エルスロンム城内に番兵の姿は少なく、それはとりたてて困難なことではなかった。
重苦しく静まり返った陰鬱な空気の中、物音を立てぬよう細心の注意を払って、三人は地下へと続く階段の見える位置までやって来た。
曲がり角の壁に背を寄せて、カディスがそっとそちらの様子を窺う。
さすがに警備が厳しい…完全武装した騎士が五人、一分の隙もなく階段の前を固めている。
人影が極端に少なくなった感のある城内ではあったが、それでも他の番兵達を呼び寄せることなしにあの騎士達をどうにかするのは無理だろう。
「どうだ?」
ラーカが囁く。
カディスは小さく首を振ると、
「フルアーマーの騎士が五人。どうにもならん」
と同じ大きさの小声で返した。
「リンド、お前、敵を眠らせる魔法…」
「ダメ。いっぺんに二人がいいとこ…五人もいるんじゃ」
リンドは申し訳なさそうに兄を見上げて首を振った。
「さぁて、どうすっか…」
呟いてカディスが腕組みしたとき。
「ちょっとアナタ達。そこで何をしてらっしゃるのかしら?」
突如聞こえたキツい女性の声。
三人はまさに飛び上がるほどビックリした。
慌てて声のした方を振り返る。
三メートルほど離れた所に、腰に両手を当て三人を睨みつけて立っている人物の姿を見て、ラーカとカディスは同時に呆れたような声をあげた。
「ジュナ…!」
さっきの彼女の一言で自分達の存在は階段の所にいつ番兵達に知れてしまっただろう。
ならば、もうコソコソする必要はない。
…というのは短絡的にすぎる思考のようだったが、とにかく声をあげてしまったものはもう仕方がない。
「おにいちゃん…知り合い?」
ラーカの後ろに身を隠しつつリンドが問うと、彼は短くうなずいた。
「エルスロンム城名物・お嬢様治癒者だ」
「この城で髪の色抜いてるのって、アルとコイツぐらいのもんだからな…」
カディスの言う通り、ジュナ・ミルールの髪の色は邪竜人間族の特徴である深紅色はしていない。
脱色して赤を薄めた柔らかいピンク色になった、ゆるくウェーブのかかった胸まで届く長さの髪が肩から落ちてふわりと揺れる。
白を基調にした上等な布地で出来た法衣。
そこらの鎧よりもずっと高価な物に違いない。
「何をコソコソ喋ってますの?」
ジュナがキッと三人を見据える。
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