第15章−8
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 十数分後。

 結果、トーザとラーカの勝ちである。

 戦闘開始直後、ラーカはアンデッド兵士四人のコントロール権を奪取し、六対十七。
 兵士同士に戦わせつつ、ラーカが攻撃魔法で残り十人余りの兵士をなんとかさばき、トーザとウォズニーが一騎討ちとなる。

 間合いを詰められることを嫌い相手から距離をとり続けるウォズニー。
 さしものトーザもカタナの刃をなかなか届かせられず、苦戦を強いられた。
 手間取っているうちにウォズニーの放った氷の呪文に左肩をやられ、がっくりとその場にうずくまってしまう。

 自分の攻撃が予想以上の効果をあげたらしいと、ウォズニーは余裕の表情で立ち止まり、薄笑いを唇に貼りつけてトーザを見る。
 瞬間、トーザがバッと顔を上げて、身体を起こした。
 片手を伸ばす。

 ウォズニーが驚いて動こうとしたとき、トーザの火炎魔法は既に彼の右足を直撃していた。
 吹っ飛び倒れるウォズニー。
 トーザは傷をそのままに気力を奮い起こして雪の中を駆け寄り、カタナの切っ先を相手の目の前に突きつけた。

「…け、剣士のクセに魔法なんか使うのか」

 負け惜しみじみた口調でウォズニーが言う。
 鼻先に迫った刃を見つめている。

「魔法を使う相手には、拙者も魔法で応じるでござる」

「…そうか。気ィ抜いとったな…オレの失敗だった」

 潔く呟いて、ウォズニーは思い出したように顔をしかめた。
 それを見てトーザも改めて肩の痛みを意識してしまう。
 耐えられない程のものではないが…カタナを握る右手まで痺れてくる。

 雪を踏んでラーカがやって来た。
 こちらは無傷で、呼吸もあまり乱れていない。

 それもそのハズ、一度倒せばクローン兵士もアンデッドに出来る。
 戦闘が進むにつれ味方の数が増えていくのだ。
 最終的には十九人から力を外し、全部ただの死体に戻してある。

「どうやら、観念したみたいだな」

「そうなったらそれしかないもん。…なあ、お互い傷の手当もせなあかんって。一旦コレ引っ込めようや」

 ウォズニーは遠慮がちにカタナの刃先を指した。
 トーザが探るような瞳を向ける。
 早くも人懐こそうな笑いを見せて彼を見上げているウォズニーには、もう敵意は感じられなかった。

 大きく息をついて、トーザはカタナを下ろし、鞘にしまった。
 待ちかねたようにウォズニーが自分の傷口に手をかざして治療を始める。
 トーザも自分の魔法でとりあえず傷を塞いだ。
 負傷した部分の周囲のコートが白く凍りついている。

 分厚い防寒具を着込んでいなければもっとダメージを受けていただろう。
 動きにくいことこのうえない厚ぼったいコートでも、防具の役には立つ。

「いやーあ、まいったまいった。あれだけおったらなんとかなるかもとか思ってたけど…ネクロマンサーてな便利なモンだな」

「まあな…んなコトはどうでもいいだろ」

「そうそう。約束だったな。氷の洞窟だ…ついて来いよ」

 ウォズニーは立ち上がると衣服についた雪を払った。

「その前に。コイツももう用ナシやな、村に送り返しとこう」

 雪の中で意識を失っているフォーバルに指先を向ける。
 転送魔法の力で彼の身体をオフォックに戻してやる。

「お前が操ってたのか?」

「ん…まぁ、そうだな」

 微妙に言葉を濁してうなずく。
 トーザは険しい瞳でウォズニーを見やって、問う。

「二人は無事でござるか?」

「オレは弱い者イジメは嫌いなんだ」

 不意に真顔で二人を見つめる。

「どっちも頑として秘密の部屋への行き方を言わない。だからって力に訴えたりはしないんだ。ガールディー様はそう言われた。白い髪の奴のコトは、オレは知らん」

「弱い者は傷つけるなと…ガールディーが言ったのでござるか?」

「全員にそう言ってるワケじゃない。何人かにだけだ。白い髪の奴の前じゃそんな素振りも見せないし、奴寄りの仲間の前でも黙ってる」

「それは、どういう…」

「おっと。でもこれ以上は喋れないね。アンタ達とは立場が違うんだ、わかってるよな?」

 ラーカの言葉を遮り、ウォズニーは言い切った。
 途中で邪魔されたラーカは不満そうに何事か言いかけたが、静かにうなずいたトーザが片手で制すると、不承不承ながらも同じくうなずき口を閉じた。

「OK。物分かりのいい奴でよかった。それじゃ、行こか」

「洞窟にはまだ兵士がいるんじゃないのか」

「おらんおらん。今全部倒してしもた」

「…それでは、ドラッケンの少女というのはどこにいるんでござる?」

「二人の見張りをしとるに決まっとるやろ。心配しなくても、アンタ達に手を出すつもりはもうない。ちゃんと案内するって」

 先刻からずっと、ウォズニーがこちらに対する害意を完全に捨ててしまったことに、トーザは気づいていた。
 彼が自分で言う通り、トーザとラーカに戦いを挑んで来るようなことはとりあえずないとみていいだろう。

 …しかし、どこか引っ掛かるものを感じなくもない。
 トーザは嫌な予感を覚えていたが…今はとにかく彼の案内に従うしかなさそうだ。

 二人はウォズニーについて行くことにした。

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