第15章−4
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 彼女が立ち去ったのを確認するだけの間を置いてから、

「私達がもっと早くこの村に来ていれば…」

 ノルラッティが沈痛な面持ちで呟いた。

「過ぎたことを悔やんでも仕方ないでござるよ」
「そうだ、トーザの言う通りだ。問題なのはこれからどうするかってことだろ」

「二人のパパとママを助けてあげようよ」

 リンドが三人を見回す。

「二人は連れて行かれただけなんでしょう? きっとまだ生きてるよ。ねえ、おにいちゃん」

「助けるったって…どこに連れ去られたのかがわかりゃあな…」

「ウンディーネの水晶を手に入れようとしているのであれば、島から出たりはしないハズです。それに、雪に閉ざされたこの小さな島で身を隠していられる場所となると限られてくるでしょう」

「やはり、『氷の洞窟』でござるな」

「しかし、連れ去られた二人が命惜しさにとっくに水の四大の部屋への行き方を白状しちまってるって可能性もあるぜ」

「それじゃ、どうして二人は帰って来ないの?」

 兄をきッと睨みつけるリンド。
 彼女がラーカに対してこんな表情をするのは珍しい。

「どうしてって…そりゃ、用済みになったから始末されたとか…」

「ひどい! そんなコト言わないでよ! 二人ともまだ無事でいるよ!」

 戸惑いつつ返したラーカの言葉を聞いて、リンドがいきなり怒鳴り始めた。

「お、落ち着けよリンド、お前が怒ることじゃないだろ?」

 慌ててなだめにかかる。
 百年近く兄妹をやってはいるが、リンドに怒鳴られたのは生まれて初めての経験だ。

 感情の起伏が激しく思っていることを比較的ストレートに表に出すリンド、彼女が唯一自分自身の感情表現にブレーキをかけるのが、『怒り』を示すときだった。
 抑え込むか、笑顔に紛らすか…深刻な怒りであればあるほど心の中に封じようとするリンドが、今回はそれを隠さずに態度や口調で周囲に伝えようとしている。

 それだけ彼女の憤りは真剣なのだろう。
 まわりの人間にも自分と同じように感じてほしいと思っているのだ。

 しかし、血を分けた兄ではあったが、ラーカには妹の怒り出した理由がよくわからなかった。
 常に最悪の事態を考えて行動する−それは、彼のような旅慣れた冒険者にとっては当たり前のことであったから−リンドがアタマから否定にかかるのが理解出来ない。

「だって、おにいちゃん…」

 なだめられ、ハッと我に返ったリンドは、声のトーンを落として、言った。

「レイドフォード君は、リンド達がやったと思ってるんだよ。邪竜人間族が」
「………」
「それなのに、そんなの…ヒドイよぉ」

 リンドは膝の上に組んだ自分の指先に視線を落とし、それきり口をつぐんだ。

 ラーカはいかにも困ってしまったと言いたげなカオで少しの間妹を見つめていたが、やがて決意したようにトーザとノルラッティに向き直り、

「こうなったら二人を見つけ出して助けてやるしかないぜ。オレ達だけで取りに行ける宝石でもなさそうだしな」

「…とすると、やはり…」

「氷の洞窟へ行ってみましょう、トーザさん。少なくとも何かの手掛かりは得られるに違いありません」

 ラーカとノルラッティに言われ、トーザは大きくうなずいた。

「行ってみる他ないでござるな。…敵の正体が分からないのが、ちと不安ではござるが…」

「あ。あの、トーザさん」

 思いついたように、リンドが口を開いた。

「ギンレイさん、さっき村を襲った七人の中にドラッケンの女の子がいたって言ってたよね」
「そうでござる」
「もしかしたら、リンドの知ってるコかもしれない」
「ホントか、リンド?」

 ラーカがビックリしてリンドの肩を掴む。

「うん、多分ね、テルルちゃんだと思う。テルル・ミード…リンドがお城で幻術の勉強してた頃、よく会ったコなの。魔道士で…」

「魔法の腕はどの程度でござった?」

 トーザの目が鋭く細められる。

「えっと…あの頃は真ん中ぐらいだった。でも、リンドの幻術の先生が言ってたの覚えてる。『テルルには生まれついての才能がある。眠れる力を引き出してやりさえすれば、邪竜人間族一の魔道士になれる』って」

「なるほど。なかなかの強敵のようでござるな」

「もし魔法で攻撃されたら…もちこたえられるでしょうか? 私にはあまり強い防御バリアを張る力はありません」
「オレもリンドもそうだ。だからと言って、今さらチャーリー・ファインの所へ助けを求めに行くワケにもいかないよな、緑の竜のお嬢さんよ」

 ノルラッティは若草色の瞳に強い光を宿してラーカを見据えた。

「当然です。不利は承知で、全力を尽くす…暗闇を嘆く前に一本のロウソクを灯す。それが光の竜のやり方です。私が弱音を吐くと思われましたか?」

「いいや。わかってるならいいんだ。だけどな、そいつは光の竜の戦い方ってだけじゃない。───男の戦い方でもあるんだぜ」

「…おにいちゃん、ワケわかんない」

 リンドが冷ややかな目で見上げている。

「………」

 沈黙が訪れたとき、それを見計らったかのようなタイミングでギンレイが戻って来た。
 両手で持った長方形のトレイに温かい湯気の立ちのぼるカップを人数分載せて運んで来る。

「お待たせしました。さあ、冷めないうちにどうぞ」

 トレイを静かにテーブルの上に降ろし、各人の前にカップを並べてゆく。
 自分のカップを両手のひらで包み込むように持って腰を下ろしたギンレイに、四人は一通りの事情をかいつまんで説明した。

 元世界一の魔道士だったガールディー・マクガイルが現在邪竜人間族の指導者的立場にいて…、というところから始まって、…そういうワケで、自分達は八つの宝石の一つであるウンディーネの水晶を手に入れるべくここに来た。
 今あなたが話してくれた事件は、どうやら我々と無関係ではなさそうなので、あなたの両親を捜し出し助け出すことに決めた。

「ついては、と言うのも何でござるが…拙者達、この島には初めて来たので地理には不案内なのでござる。出来れば、洞窟の入り口まで案内していただければ大いに助かるんでござるが」

「わかりました。もちろん、協力させていただきます。本当にありがとう…レイも喜びます」

 ギンレイは頬を上気させて何度も頭を下げた。

「私の足では、皆さんの案内役は無理でしょうから、今夜のうちにいとこに話をしておきます」

「よろしくお願いします、ギンレイさん」

「こちらこそ…さて、それじゃあ、今晩は腕によりをかけて料理を作りますね。たっぷり栄養をつけてもらわなきゃ。…と、その前に、───お部屋にご案内しないと…すっかり忘れてたわ」

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