第11章−13
(13)
胃腸の働きを良くするという、数種類の薬草を調合して作った薬を服ませてもらって、チャーリーはいくつかある客間の一つのベッドに横になった。
その枕元に見守るフレデリックの姿。
「…アンタ、どーしてここにいるの」
「何があったのかはわかりませんが、気をしっかりもって下さいね。私がついてますから」
「いや、ついてていらない」
「チャーリーさんの病気はきっと治りますよ。信じましょう」
…トリアタマのうえにカン違いの悪癖まで身についたのだろうか。
だとすると、彼はもう生きていても仕方がないぞ。
とまではいかないが…。
「別に私は病気じゃな…」
「さっ、あんまり喋ると身体に毒です。ゆっくりお休みになった方がいい。何なら一眠りなさった方が」
だったら出て行けと言ってやりたかったが、いつものニコニコ顔ではなく心配げな表情で自分を見つめているフレデリックの顔を目にすると、そう冷たくは出られなくなる。
彼に悪気はないのだ。
もっとも、彼女のまわりは『悪気のない』連中だらけだが。
しかし彼の心配は本物だ。
別に誰かの心配が偽物だというワケではない。
「眠れますか? 子守歌でも唄いましょうか?」
「眠らせたいなら静かにしてて」
「スイマセン、わかりました」
…………。
二十秒後。
「ところでチャーリーさん、どうして真っ昼間から寝てるんですか?」
三十秒もたなかった。
はたして彼の心配は本物なのだろうか。
「アンタねぇ、いい加減に出て行っ…あッ!」
チャーリーは思わずガバッと跳ね起きた。
フレデリックの胸元に手を伸ばして、ショルダーアーマーの隙間からはみ出していた物をむしり取るように手にする。
それは、チャーリーの受け取った封筒とそっくり同じものだった。
「おや。誰からの手紙ですか?」
こっちが聞きたい。
チャーリーは丁寧にノリづけ部分を剥がされた封筒からビンセンを取り出すと、ノンブルを確かめた。
1/9、2/9、3/9。
ラストジャッジメントのスペルの頭の部分だ。
まあ予想通りの人物の手元にあった。
あったからと言ってどうなるものでもない。
チャーリーはビンセンを封筒に戻してフレデリックに突き返すと、ごろんとまた横になった。
「何なんでしょうね、この手紙。呪文のようですけど、完結してない」
改めて手紙を見ながらフレデリックが言う。
「その続きの三枚は私が受け取った」
「へえ。これと同じですか」
もちろん書かれてある内容は違う。
「大体ね」
「ふ〜ん…持ってらっしゃるんですか、その手紙」
彼女自身ではなくグリフが持っている。
羽根の中に隠してあるのだ。
しかしそのことを誰かに教える気はなかった。
十五秒黙る。
「誰が書いたんでしょう、これ」
ほら忘れた。
「問題は誰が書いたか、じゃない。何故書いたのか、だよ」
「なるほど、そうですよね。宛て名も差出人の名前もない手紙じゃいきなり捨てられるかもしれませんもんね、威力を倍増させるためならこんな不確実な方法はとりませんよね」
「…何?」
威力を倍増させる?
チャーリーは上体を起こした。
「どういうイミ?」
「あッ、スイマセン。何か気にさわること言いましたか、私」
「そうじゃなくて…魔法の威力を倍増させるっていうのは」
「はあ、どうするんですか?」
チャーリーはどさッとベッドに倒れ込んだ。
「無理はいけませんよ。ゆっくり休んで下さい」
…だから出て行けよ。
しかしフレデリックに人の顔色を読むなどということはどだい無理なのであった。
第11章 了
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