第11章−7
         10 11 12 13
(7)

 王家の洞窟の入り口周辺には、鋼鉄製の鎧に身を包んだ騎士が十二人、見張りのために立っていた。

 頑丈な木の枠と手の平より一回り大きいぐらいの石板数枚とで補強された入り口の前を半円形に囲むようにして思い思いの場所に立っている。

 洞窟からは眩いばかりの翠色の輝きが溢れ出していた。
 普段なら暗闇に沈んで見えない湿った岩壁も明るく照らし出されて、突起になった箇所がくっきりと濃い影を落としている。

 光り始めた最初の頃は結構な騒ぎになり厳重な警戒もつけられたものだったが、一週間も経つ頃になるとさすがに緊張感も薄れてきつつあった。
 王城に仕えている魔道士の調査で、この光に特に害がないことも光源が洞窟の奥に置かれた翡翠であることも判明している。
 家臣連が細心の注意を払っていたにも拘わらず国王陛下が王城を抜け出してどうもチャーリー・ファインを呼びに行ったらしいということも伝わって来ていた。
 陛下のことだからじきにチャーリーを連れて平気な顔で戻って来るに違いない。

 先程空を覆い尽くさんばかりの勢いで巨大な津波が突っ込んで来たり、その波を割るように海蛇が出現したりしたときにはさすがに肝を冷やしたが、過ぎてみればどうということはない。
 津波は砂浜の上で凍りついているし、シー・サーペントも姿を消した。
 何があったのかは知らないが、とりあえずここは安全だ。

 そんなことを考えながら入り口の一番近くで少しぼーッとなりかけていた騎士に、歩み寄って来た別の騎士が話しかける。
 「隊長」と呼ばれて男はハッと気を取り直し、言葉をかけて来た騎士に向き直った。

「何だ?」
「何かこちらに向かって来ますが…」
「え?」

 言われて見上げる。
 確かに人影が二つ、かなりのスピードでこっちに来る。
 隊長の目はその後ろに飛竜がいるのを初めてとらえた。

「あれは陛下のシルヴァリオンですよね…」

 騎士が呟く。
 この辺に他に飛竜がいるワケがない。
 隊長は不穏なものを感じた。
 二つの人影は敵に違いない。

「スレイマン、エヴァンズ、備えてくれ。相手の少なくとも一人はドラッケンだ」
「はい!」

 隊長の指示に従って、黒い長髪を白いリボンで一つにまとめて背中に垂らした青年と、焦茶色の短い髪をオールバックにしたそろそろ中年といった年齢の男が進み出た。
 二人は洞窟の入り口がお互いの間に仲間達が自分達の背中側にそれぞれ位置するように距離をあけて立つと、同時に呪文の詠唱を開始した。

 ちなみに黒い髪の青年の名がスレイマン、焦茶のオールバックの男性がエヴァンズである。


「離れていなさい、ドリューク!」

 ジュナの命令調の声が飛ぶ。
 ドリュークと呼ばれた騎士はすぐさま身体を反転させて宙に静止する。
 ジュナはその間にもスピードを緩めずに飛んでいるから、たちまち距離が出来る。

 ジュナの法衣が風を巻いて膨れ上がった。
 瞬間、彼女の身体から衝撃波が飛ぶ。
 優美な曲線をもった身体を大きく伸ばし、翼をぐっと引きつけて自由落下にも似た勢いで大気を切り裂いていく竜の姿−燃え立つような深紅のウロコに身を包んだ、レッド・ドラゴンである。


「赤い竜?!」

 ヴァシルが驚いて声をあげた。

「ドラッケンッつったら、黒い竜だろ?」

 チャーリーがシェリイン村を出た日に襲われたことを思い出しつつ続ける。

「純血の邪竜人間族はそうですね」

 メール・シードが相手をする。

「純血?」

「片親の種族が違うとドラゴンになったときのウロコの色が変わるんですよ。髪の色と瞳の色は邪竜人間族の遺伝子の側に優性があるので変化はないですけどね。レッド・ドラゴンということは、父親が邪竜人間族で母親が人間族なんでしょう」

「ふ〜ん……」

 わかったようなわからなかったような顔でうなずくヴァシル。

前にもどる   『the Legend』トップ   次へすすむ

Copyright © 2001 Kuon Ryu All Rights Reserved.