第8章−12
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「あれッ?」

 突然聞こえた声に、シルヴァリオンに話しかけていたマーナはくるりとそっちを振り向いた。

「あ! お帰りなさーい!」

 明るく言って体ごと、忽然と出現したチャーリー達に向き直る。
 移動魔法でやって来たことはわかっていたから驚きはしなかった。

 チャーリーはマーナの方にはまるっきり目も向けないで、城門の前にいる空色の飛竜を見つめていた。

「シルヴァリオン?」

 小さく呟くと、飛竜は嬉しそうに首を振った。
 その陰からグリフが出て来てチャーリーに走り寄る。
 その姿を一目見るなり、チャーリーの頭の中からたちまちシルヴァリオンのことは消えてしまう。

「ただいま、グリフ!」

 マーナにも負けない明るい声で言って、グリフの温かい首筋をがしっと抱き締める。
 グリフも甘えた声を喉の奥から発しながら、チャーリーの肩に顔をすりつけた。
 感動の再会…というほどのこともないとは思うが、とにかくどちらもお互いの顔を見られたことが幸せでたまらないといった様子でひしと身を寄せ合っていた。

「コイツがいるッてコトは、あの新しい方の王さんが来てるのか?」

 ヴァシルがマーナに尋ねる。
 彼は横にいるトーザの腕をしっかりと掴んでいた。
 …チャーリーの魔法で妙な所に飛ばされないための用心である。

 そんなにおかしな所に出ちゃうのがイヤなんだったら、誰かにつかまってればいいんじゃないですかとイブに言われたときには、ヴァシルは珍しく自分の頭の悪さを呪った。

 それにしても、なんでトーザにつかまってるとうまくいくんだ?
 アイツ、やっぱりワザとしてんじゃねぇのか…。

 自然とチャーリーを非難する方向へ走って行ってしまう思考を、勢いよくうなずいたマーナの元気のいい声がストップさせる。

「うん、そう言ってたよ。私はすぐこっちに来たから国王陛下にはお会いしてないけど」

 ねぇ? とシルヴァリオンを見上げる。
 飛竜は同意するようにうなずいた。

「もしかして、この声…」

 不意にイブが進み出た。
 それまでは前にチャーリー達がいてシルヴァリオンの顔しか見えていなかったのだ。
 ヴァシルの陰からひょいと顔を出すと、イブの声にその辺りを注目していたマーナとマトモに目が合う。
 と。

「あーーーーーッ!!」

 二人は同時に大声を張り上げた。
 全員、ビックリして二人を見る。
 チャーリーとグリフも思わず顔を上げた。

「イブ!」
「マーナ!」

 二人は相手の名を呼び合うと、ぱっとそれぞれに走り寄ってがしっと両手を取り合った。

「久しぶり! 元気だった?」
「うん! そっちこそ元気そう、まさかこんな所で会えるなんて思わなかった!」
「私だって!」

 その年頃の女の子らしく耳に痛い騒々しさで話し始めたマーナとイブを、皆はちょっとの間唖然として眺めていたが、チャーリーはすぐに気を取り直した。
 グリフの首をぽんぽんと軽く叩いて身体を離すと、

「まっ、とりあえず中に入ろう。こんな所にいても仕方ない」

 冷静な声で促す。
 しかし一番最初に動きを止めていたのはチャーリーである。

 …などと言っても仕方のないことなので、誰も口には出さなかった。
 せっかく機嫌良くしているところへちょっかいをかけて気分を損ねてしまったりしたら何をされるかわからない…と内心思っているかどうかは神のみぞ知るというやつだ。

「そうですね、ゴールドウィン陛下にご挨拶もしなければならないですしね」

 サイトが言うと、

「サースルーン王だけで十分なのに…」

 ぼそりと一言。

「あの、チャーリーさん?」
「あ、今のはタダのひとりごと。気にしないで…じゃあ、行こうか」

 チャーリーに言われるまま、一行は城門をくぐった。
 シルヴァリオンがどことなく寂しそうにチャーリーの背中を見送っていたのがマーナは気になったが、当のチャーリーはマーナとは違ってグリフ以外のビーストにはあまり興味がないらしく、振り向きもせずにどんどん歩いて行ってしまった。

第8章 了


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