第8章−4
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「まさか! とすると…」
「拙者達をここへおびき出しておいて、その間に…」
「…どーするつもりだったんだろうなァ」
ヴァシルがその場の緊張感を台無しにした。
友人の間抜けさ加減に殺意にも近い感情を胸に秘めて睨みつけるチャーリー。
トーザが慌てて間に入る。
「とにかく、バルデシオン城の方が心配でござる」
「王様がいるから大丈夫だとは思うけど…一刻も早く戻るに越したコトはないよね」
言いながら、こんな単純な手も見抜けなかった自分に苛立つ。
島に大量のモンスターを転送魔法で送り込む…小屋に重要な地図があると教える…大量のモンスターと戦う為に、小屋の勝手を知るチャーリーは当然、戦闘力の高いメンバーがここに来る…その隙に何をするつもりなのかは知らないが、自分達はガールディーの罠にまんまと引っかかってしまったということだろうか?
チャーリーに連絡して来たときのガールディーは、既にマトモではなかったのか…この紙に《ハズレ》と書いていないのが不思議なくらいだったが、考えてみるまでもなく『闇』に乗っ取られた彼がそんなお茶目なコトをするワケがない。
とにかく、ここにはもう用はない!
「…あのー…」
動転して小屋を出て行こうとしたチャーリー達を、のんびりとした声が引き留めた。
イブの声ではない。
振り向くと、メールがテーブルの脇に立って、チャーリーが置いて行こうとした厚紙を片手に持って、こちらを見ている。
「何?」
「皆さんの探しておられる地図というのは、やっぱりこれだと思うんですけど」
「えッ?」
「でも…それ、真っ白ですよ?」
「ええ。これは重要な図面なんかを他人の目に触れさせない為の工夫の一つなんです」
落ち着いた様子で言うメール。
チャーリー達はとりあえずテーブルの前まで引き返して来た。
メールはチャーリーにその紙を差し出す。
メールの顔を見つめながら、チャーリーはそれを受け取る。
「普通の紙とは手触りが違うでしょう? 分厚いでしょう、かなり」
「うん、それは…それが何か?」
「これは三枚の紙を貼り合わせて作ったものなんです」
「三枚の紙を…?」
「重要な書類が破れたりしないように裏に補強用の紙を貼るってのはよくやりますよね? これは書類の表側にも下に書いてあることが透けて見えないくらいの厚さの紙を貼って…つまり、書類を二枚の紙でサンドイッチみたいに挟み込んでですね、一枚の紙に見えるように押さえつけて平たくしたものです。大抵は重ねて貼った紙の方にカムフラージュの為の図面なり文章なりを書いておくものなんですが、そこまで気を回す必要はないと思ったんでしょう」
「なるほど…でも、何だってこんな細工を?
もしここに君がいなけりゃ私はこの紙を放って行ってしまうところだったのに、ガールディーはそんなコト一言も教えてくれなかった」
「ガールディーさんがここに取りに来るように言ったんですか?
その紙」
イブが言う。
チャーリーはそっちを少しだけ見て、うなずいた。
「だとしたら、ガールディーさんには分かっていたのかもしれませんよ。私達がここにいるというコトが」
静かな声でメールが呟く。
さらりとしている中にもどこか耳に引っかかる響きをもつその言葉を聞いて、チャーリーはふと思い出した。
ガールディーの予言能力の確かさ。
九十九%以上の的中率を持つその言葉。
不意に耳元によみがえって来る。
そしてお前は、いつか、俺を殺す。
…あれは、あの言葉は…予言ではなく、ただの気まぐれな独り言だったのだろうか。
「それでは、どうすれば二枚の紙に挟み込まれた地図を取り出せるんでござるか?」
チャーリーの沈黙のせいで沈みかけたその場の空気をトーザが破る。
メールは少しの間目を細めるようにしてチャーリーの手の中にある紙片を観察し、それから普通の表情に戻って言った。
「手先の器用な人なら表側の紙をうまく剥がせるでしょう。あいにくと私は不器用な方なので出来ませんが」
「手先が器用っつーと…」
ヴァシルが腕組みした格好で口を開く。
「コランドさんでしょう、やはり」
サイトが続けた。
チャーリーはその言葉に短く首を縦に振った。
「そうか、アイツもようやく人の役に立てるのか」
「その言葉はちょっとあんまりのような気がするんでござるが…」
「それじゃあ、今度こそバルデシオン城に…」
そう言いながら、チャーリーがドアの方に向き直ろうとした、そのとき───。
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