第8章−5
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(5)

 いきなり背中から壁に叩きつけられた。

 吐き出しかけた息を飲み込むように喘ぐ。

 呼吸が止まった…心臓も同時に止まったかと思った。

 何だッ…?

 そう、言葉にして考えたときには、木の床に座り込んでしまっていた。
 ダメージはそれほどでもないようだったが、ショックが激しい。
 すぐには足が言うことをきかない。

 チャーリーはさっと前方百八十度に視線を走らせた。

 …ドアがなくなっている。
 外に通じる長方形の木の枠は黒に近い焦茶色に変色して、薄く煙をあげていた。

 チャーリーから見て右側にトーザが、左側にヴァシルが、それぞれ身体を丸めるようにして倒れている。
 ドアの枠の近くには、サイトがうつ伏せになって横たわっていた。

 …?!

 状況が掴めない。
 魔法か?
 魔法だとしたら…自分はそれを防御出来ないほど気を緩めていたというのか?
 そんなハズがない。

「大丈夫ですかッ…?」

 部屋の隅の方でうずくまっていたイブが、慌てて顔を上げ叫ぶように言った。
 イブよりも手前側にメールも倒れている。

 皆の倒れ方を一わたり見回して、チャーリーにはやっとこれが何の魔法なのかわかった。
 爆烈魔法と火炎魔法の複合応用形…空間を炸裂させて、その衝撃波で相手にダメージを与える魔法だ。

 トーザが起き上がった。
 カタナの柄に片手をやりつつ、床に座ったままで周囲を見回す。
 前後するようにヴァシルが跳び起き、サイトも頭を振りながら身体を起こした。

 チャーリーは握り締めていた正方形の紙片を床に置くと、壁にすがるようにして立ち上がった。
 呪文はチャーリーを目標として放たれたらしい。
 最初に感じたよりもこたえた。
 地図が破れてしまわなかったのは不幸中の幸いというものだった。

「だ、大丈夫ですか? チャーリーさん」

 イブが駆け寄って来る。
 チャーリーは彼女の顔を見ないまま事務的にうなずいて、ドアのあった所を睨みつけた。

 ちょうどそのとき部屋の中に飛び込んで来ようとしていた二発目の魔法−火球は、戸口で目に見えない壁に阻まれ、音を立ててあっけなく破裂し、消えた。
 チャーリーが咄嗟に張ったバリアに弾かれたのだ。

「ヴァシル、サイト、表! トーザはメールさんを…」

「私ならなんとか大丈夫ですよ」

 振り向くと、メールは上着についた埃を案外平気そうな様子ではたき落としていた。
 チャーリーがそっちを見ている間に、ヴァシルとサイトは外へ飛び出して行く。

「チャーリーが一番ダメージが大きいようでござるな」

 トーザがカタナから手を離し、急いでやって来る。

「これぐらい大したコトない…ッて言いたいんだけど、そうもいかないみたい。回復頼むわ」

 壁にもたれるようにして言う。
 すぐ前までやって来たトーザは軽くうなずくと、目を閉じたチャーリーの額の上に片手をかざして、小声で呪文を唱え始めた。

「シード、私達も行こう!」

 イブが声をかける。
 メールは気のなさそうな様子でぼんやりとした瞳をそちらに向けた。
 イブが苛立ったように言葉を重ねる。

「私達も攻撃されたのよッ!」

 メールの切れ長の目にさッと光が射した。

「そうですね。行きましょう」

 そうして二人が出て行った直後、トーザの魔法のおかげで調子を取り戻したチャーリーは、床に置いた地図を拾って折り畳み懐に入れようとして…懐にそういう物を入れておくようなつくりに自分の服がなっていないのに気づいたので、それをトーザに押しつけるように渡してから、トーザがその紙をちゃんと受け取ったかどうかにはまるで無関心の様子で振り向きもせず走り出て行ってしまった。
 トーザはそれを懐に入れて、チャーリーの後を追った。

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