第5章−12
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 チャーリー達が謁見の間へ入るのと、トーザ達がノルラッティに一通りの事情を説明し終わるのとは、都合のいいコトにほとんど同時だった。

「…んッ?」

 入ってすぐにチャーリーがそんな声をあげた。
 彼女の視線はマーナのそばにいるサーベルタイガーと、頭の上にいるダイブイーグルに吸い付けられている。

「ビーストマスター?!」

 驚いてマーナの方を見る。
 その声にマーナが振り返る。

「あ、チャーリー」

 トーザが振り向く。

「チャーリーはん、事態に進展があったんでっけど…」

 言いかけるコランドを無視して、チャーリーはサーベルタイガーに走り寄り、一般の飼い犬を撫でるのと同じようにその頭をかいぐってやった。
 気持ち良さそうに目を細めるガブリエル。

「かわいいッ! ねえねえ、このコどこにいたの? 友達になんの難しかったんじゃないの?」

 チャーリーはマーナの方を見てはしゃいだ声で尋ねた。

「えとねッ、このコは子供の頃からアタシが育ててるからそーでもないよ。ほとんど人生の半分以上一緒に生きてきたもん」

 負けないくらいはしゃいだ声で応じるマーナ。

「名前何てゆーの?」
「ガブリエル。ガブちゃんって呼んでね」
「じゃあさじゃあさ、こっちのダイブイーグルは?」
「このコもね、ヒナの頃から育てたの。スバルッて言うんだよ」
「あ、カッコいい名前ー」
「でしょでしょっ? そんでね、この、今ウエストポーチの中で眠ってるのが、ゴールデンハムスターの…」
「ごーるでんはむっ?! そーだよね、ハムはビーストマスターの基本だよねッ」
「ほらほら、ちゅちゅクンッて言うの。かわいいでしょ?」
「かわいいかわいい! 私もハム欲しかったんだけど、使いみちなさそーだったからやめといたの」
「ダメダメ、使いみちなんか考えちゃ。ハムはかわいいだけでいいんだから…ってコトは、あなたもビーストマスター?」
「うん。一匹だけだけどね、グリフォンのグリフッてゆーの」
「うっそォ、グリフォン?! すっごーい、かっこいーいっ、うらやましいッ!」
「おおっ、グリフォンの良さが分かってんじゃない!」
「見たい、見たい、見た〜いッ!」
「じゃあさ、今から見に行こっか、今から」
「うんうん、そーしようッ!」

 …と盛り上がってそのままの勢いで謁見の間から出て行こうとしたチャーリーのマントの裾を、ヴァシルが力一杯踏みつけた。
 尻餅ついて転ぶチャーリー。

「ぬぁにを考えとるんだ、お前はッ!」

 腕組みでじろりと見下ろすヴァシル。

「あたた…何考えてんだって…」
「この状況をどーするつもりだ、この状況を」

 びしッと指さす先には、突然のチャーリーとマーナの盛り上がりぶりに目を粉にして固まってしまっているトーザ達の姿。
 ヴァシルの横でラルファグもぼー然となっている。

「…どーしよう?」
「お前が考えろ、お前のせいだ」
「まったく…世話が焼けるんだから…」

 立ち上がり、マントのホコリをぱんぱんとはたく。
 それからおもむろにコランドの前まで歩いて行って、

「で? 事態に進展があったって、どーかしたの?」

 いつも通りの冷静な声で問う。
 が、真っ白になって固まっているコランドにすぐ返事が出来るワケもなく。

「…しょーがないなァ…」

 タメ息。
 次の瞬間、チャーリーは手を振り上げてコランドの横っ面を思いっきり張り飛ばした。
 すぱあんッ! という威勢のいい音に、叩かれた当のコランドはもちろんのこと、トーザ達もはッと我に返る。

「ひ、ひどすぎるんやおまへんかッ?」

 赤くなったほっぺたを押さえて涙目で抗議するコランド。

「いいでしょ、あの状況が何とかなったんだから…それで、何があったって?」

「ふんっ、ワイなんか所詮どーなってもええんや! ワイにはこの程度のみじめな扱いがお似合いなんや!」
「早く言わないともう一発いくよ」
「言いますッ、今言いますッ!」

 それにしてもひどい扱いもあったものである。

「ノルラッティはんがあの宝石にさわれたんですわ」

「ノルラッティが? …ねえ、もしかして、あの宝石とかって私だけがさわれないって奴じゃないでしょーね…」
「ワイらもちょっとそう考えたんでっけど、やっぱ違うみたいでっせ」
「そちらのマーナ殿が宝石にさわろうとして、チャーリーと同じように弾き飛ばされたんでござる」
「えッ、君も?!」

 体ごとマーナに向き直るチャーリー。

「それじゃ、あなたも?!」

 目を丸くして指さすマーナ。

 数秒の沈黙のあと、どちらからともなく駆け寄って両手を取り合う二人。

「私達って、本当の親友になれるかも…」
「仲良くしよーねッ」

「だから、そのノリはやめろって…」

「けどまァ、それはそれとして…」

 チャーリーはあっさりとマーナの手を離して王座のサイトとサースルーンの方に向き直った。
 特に意味はない。

「これで何人だ? ヴァシル、トーザ、コランド、サイト、それにノルラッティ…八人の勇者の内五人までここに揃っちゃったワケ?」

 指折り数えて、くるりと振り返る。

「もしかすると、ラルファグも…」

 その言葉に、全員の視線が一番出入り口の近くにいたラルファグに集中する。
 状況が把握出来ずちょっと焦る彼。

「まさか、そー都合よくいくかよ」
「せやけど、もしかしたら、ゆーコトもありますで」
「た、試すんでござるか?」
「このヒト魔法耐久力がムチャクチャあるから大丈夫だよ」

 さらりと言ってのけるチャーリー。
 不安そうにそっちを見ているラルファグ。
 ヴァシルは一人で納得したようにうなずくと、コランドの方に片手を差し出した。
 コランドは腰の袋の中からアクアマリンの方を取り出してヴァシルの手の上に放り投げる。
 緑の宝石はサイトが持っていた。

「よ〜しッ。ラルファグ、これ受け取れよ」

 コランドから受け取ったアクアマリンを、ぽいっと放り投げる。

「えっ?」

 思わずキャッチするラルファグ…の身体が、次の瞬間後ろに跳ね飛ばされた。
 閉められていたドアに激突して床に転がった彼はそのままの状態で気絶してしまった。

「…やっぱりダメか」

 分かっていたように呟くヴァシル。

「ひ…ひどい…」
「他の判別方法を探さんといかんでござるな…」
「ノルラッティ、回復呪文を」
「あ…は、はい」

 サイトに言われ、ラルファグに駆け寄るノルラッティ。

「気絶するほどのもんでもないと思うけどな…」

 冷たく言い放つチャーリーであった。

第5章 了


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