第5章−6
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 翌朝。

 海辺の洞窟の抜け穴の中を明け方近く歩き出し、朝早くに地上へ出て来たヴァシル、トーザ、コランドの三人組は、それから一時間ほど歩いてバルデシオン城下町までやって来た。

 三人ともほとんど来たことのない町だ。
 一日の始まりに相応しいすがすがしい活気の中、住人達が出会う人ごとに挨拶の言葉を掛け合い、出来たばかりの朝食のいい匂いが漂う、平和な風景。

「さっ、早く城に行こーぜ。早くしねーと朝メシ食いそびれるぜ」

 元気よく城の門へと続く大通りを歩いて行くヴァシル。
 後から続くトーザとコランド。

「昨日の夜からロクなモン食っとりませんからなァ。ええ料理が出て来たらえーんでっけど」
「それはもっともでござるが…朝食でござるから、あまり豪華なものが出されるとは思わない方がいいでござるよ」
「何言ってんだ、豪華なモンが出て来なかったら注文するに決まってんだろ。こんな機会滅多にねーんだから、しっかり食っとかねェとな」
「…しっかり、でござるか…」

 人間離れした大食漢のヴァシルがしっかり食べたらどんなことになるのやら。
 そんなことを一瞬だけ考え、苦笑するトーザ。

 他愛のない話をしているうちに、三人は城門までやって来た。
 ちょうど、二人の兵士が夜間は閉ざされている門扉を開けるところだ。
 ヴァシル達が近づいて行くと、気づいた兵士の一人が陽気に声をかけて来た。

「おはようございます。今日はあなた達が一番乗りですよ」

 安価な革鎧を身に着け、ショートソードを腰に提げたいかにも位の低そうな兵士。
 城門の番にしては少し頼りなかったが、二人とも善竜人間族なのだから心配はいらないのだろう。

「朝メシにはまだ間に合うか?」
「ヴァシル! 名乗らずにいきなりそれはないでござろーが…」
「ああ、ヴァシル・レドアさん。チャーリーさんのご友人の…」

 最初に声をかけて来た方とは別の兵士が思い出したように言った。

「ああ。こっちがトーザだぜ」
「お二人のお噂はかねがねうかがっておりますよ。で、そちらの方は?」
「コイツはコランド・ミシイズ。行きずりの盗賊だ」
「行きずりてアンタ…」
「コランド? …どこかで聞いたような…」
「まっ、それはともかくとして、早く中に入れてくれよ。朝メシが楽しみで急いで来たんだからよ」
「わかってますよ。それじゃ、案内します。ちょっと任せたぞ」


 三人が兵士に先導されて城の中へ入って行くと、エントランスホールでグリフが侍女達に果物を食べさせてもらっているのがすぐ目に入った。
 グリフもすぐにヴァシル達に気づいて、ちょうどくわえていたりんごを飲み込むと、顔を向けて「くえ〜」と嬉しそうに鳴いた。
 侍女達が一斉に振り返る。

「よぉグリフ、お前の主人はどーした?」

 ヴァシルの言葉に、グリフは階段の上の方に視線をやった。

「食堂にいるのかもしれませんよ」
「何! と言うコトは朝メシの真っ最中か!」

 思わず拳を握り締めるヴァシル。

「いいえ、チャーリーさんならまだお休み中のハズですよ」

 侍女の一人が言った。

「相変わらず朝は遅いようでござるな…」
「そうじゃないんですよ。ねえ?」
「うんうん、昨日の夜…」
「皇子様とご一緒に…」
「ホント、ビックリしたわよねぇ」
「ね〜ッ!」

 意味ありげにひそひそ声で会話を交わし、おかしそうにくすくす笑う侍女達。
 戸惑って顔を見合わせる三人。

「おいおい、一体何があったのかちゃんと説明しないと、お客様方に失礼じゃないか」

 兵士が一歩前に出て注意する。

「すいません…実は、昨夜チャーリーさんが……」

 一番手前にいた侍女が説明を始めようとしたとき。

 突如、ヴァシル達と彼女との間の空間にチャーリーが出現した。
 移動魔法を使ったのだろう…腕組みして、じとっと侍女の方を睨みつける。

「あ…チ、チャーリーさん…」

 たじたじとなって後退る侍女。
 グリフが駆け寄って来るのはちゃんと笑顔で撫でてやる。

「チャーリー、お前もついに玉の輿か」
「何の話ッ?!」
「だって、アイツらの話からすると、昨夜サイトと…」

 再度侍女達を睨むチャーリー。

「い、言ってません、そんな風には言ってませんよぉ!」
「誤解です、誤解ッ!」
「なんか違うのかー?」

 屈託のないヴァシル。

「全然違うのッ!! …とにかく、こんな所で喋ってないで王様にアイサツに行かなきゃなんないでしょーが。ほら、行くよ!」

「その前にッ!」

「…な、何…」

「朝メシは食えるんだろーな」
「それしかないんでござるな…」

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