第5章−10
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 トーザとコランドはサイト達に従って謁見の間へやって来た。
 中へ入る。
 当然誰も腰かけていない二つの王座の前に、司祭服姿のノルラッティと、隣に立つ小柄な少女が一人。
 そしてその少女のまわりには。

「ひ、ひええッ?!」

 コランドは仰天してサイトの後ろに隠れた。
 サースルーンを除く他の二人も思わずそれぞれの武器に手をやって身構える。

 ノルラッティを訪ねて来た少女の足元に、獣型モンスター、サーベルタイガーが伏せていたからだ。
 加えて彼女の頭の上に、聖域の洞窟のある島でヴァシルが仕留めたのと同じダイブイーグルが翼を畳んで乗っかっていた。

 殺気立ったトーザとサイトを見て、慌ててノルラッティが前に進み出る。

「ま、待って下さい。モンスターじゃないんです」
「え?」
「どうもオドロかせて申し訳ありません」

 少女が四人の方に向き直ってぺこりと頭を下げた。

「初めまして、あたし、バード兼アークマスターのマーナ・シェルファードッて言います。今日は王様達に、僭越ながらあたしの歌を一曲聴いていただこうと思って、ノルラッティに会いがてらここへ来させてもらいました」

「アークマスター…とは?」

 サースルーンが問う。

「あ。えっと、モンスターをおトモダチにして一緒に旅してる冒険者のコトをビーストマスターッて言うんですけど、その中でもモンスターを三匹以上連れてるビーストマスターを特にアークマスターッて言うんです」

「見たところ、二匹しかいないようだけど?」

 剣の柄から手を離してサイトが言うと、マーナはウエストポーチをごそごそと探って、手の平に薄茶色のかたまりを乗せて差し出して見せた。

「今ちょっとお昼寝しちゃってるんですけど」
「…ゴールデンハムスター…ですな?」

 サイトの陰からこそっと顔だけ出して覗いたコランドが拍子抜けしたように言う。
 砂漠に住む小さなネズミの一種で、丈夫で飼いやすいため世界中でペット化されている。
 …これをモンスターと呼ぶとはとても思えないが。

「それじゃ紹介しますねえ。このコが、サーベルタイガーのガブリエル。ガブちゃんって呼んで下さいね  こっちはダイブイーグルのスバル…んで、今かわいー顔で眠ってるのが、ゴールデンハムスターのちゅちゅクンでーす」

 全員、目が点。
 ノルラッティも苦笑気味。
 そんな周囲の反応にもメゲずに…というか、まるで気にもせずに、マーナは上機嫌だ。

「マ…マーナ、自己紹介はその辺にして…そろそろ、歌の方をお聴かせして…」
「あ。そーね、そろそろお聴かせしないと」
「そ、それじゃ、王座の方へ…」
「あ、ああ」

 サースルーン達が歩き出し、ノルラッティの横を通り抜けようとする。
 途端、コランドが腰の袋の中に入れておいた宝石が輝き出した。
 布地を貫いて緑色の光がほとばしる。

「なッ、何やッ?!」
「何ですかッ?!」

 同時に慌てふためくコランドとノルラッティ。

「コランド殿、宝石を出してみるでござる!」
「はっ、はいはいはい!」

 大急ぎで取り出す。
 手の平に緑色の宝石を載せて、とりあえず目の高さまで持ち上げる。

「どうしたんでござるか…?」

 トーザが歩み寄る。
 マーナを庇うように前に出て姿勢を低くして唸っているサーベルタイガー−ガブリエルの気配を気にしながら。

「さあ、さっぱり…」
「…? その宝石…」

 ノルラッティが近づいて来た。
 緑色の輝きに目を奪われたまま、吸い寄せられるように手を伸ばす。

「?! ノルラッティ、危ないッ!」

 サイトが咄嗟に止めようとしたが、間に合わずノルラッティは宝石に触れてしまう。
 はっと息を呑む、事情を知る四人。

 …しかし。
 ノルラッティは平気なカオで、コランドの手の上から宝石をつまみ上げた。

「すごくきれい…それに、何だか不思議な輝きですね…」

 右手で取った緑色の石を、左手の平の上に載せる。
 そして、目を細めて覗き込む。

「…もしかして、さわれないのってチャーリーはんだけなんや…」
「そんなハズないと思うんでござるが…」
「へえ、キレイな宝石! エメラルド? ノルラッティ、ちょっと見せて!」

 マーナがノルラッティの横に走り寄って来る。
 そして、当然のように手の上にあるのを眺めるだけではとどまらずに、手を出して持ってみようとした。
 持ってみようとして───直後、弾き飛ばされた。

「きゃんッ!」

 悲鳴を上げて、もんどりうつように床に倒れるマーナ。
 ガブリエルとスバルが驚いて倒れた彼女のそばへ行く。

「マーナ! …ど、どうなってるんですかッ?!」
「ああ、ホンマにチャーリーはんだけやありまへんでしたな」
「そんなコト言ってる場合ではござらんよ! 大丈夫でござるか?」
「完全にノビとるなァ」

 冷静に腕組みして見下ろすサースルーン。

 ノルラッティは宝石をサイトに手渡すと、しゃがみ込んでマーナの体を抱き起こし、片手を彼女の額の上にかざして回復呪文を唱えた。
 白い光が手の平から数秒の間にじみ出し、それが消えると同時にマーナが目を開ける。

「…あれ…な…何?! 今の宝石ッ!!」

 ばっと跳び起きる。
 ノルラッティ、さっぱり訳が分からないという顔で首を振って、サイトの方を見上げた。

「ノルラッティにも説明せねばならんようだな」

 サースルーンが言う。

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