第５章−９
（９）
チャーリー達は再びガラスケースの前へやって来た。
青く輝くアクアマリンの前に立つ。
サースルーンがケースの上に手を置くと、ガラスは瞬時に消えてなくなった。
ガラスと見えていたのは、魔法で作られたバリアだったようだ。
「それじゃ、サイト」
「はい」
一歩前に出て、アクアマリンに手を伸ばす。
青い宝石を軽く握り締めた手を、緑の宝石を持ったもう一方の手に近づける。
突然、両方の宝石から眩い光がほとばしった。
思わず目を閉じるサイト、腕を上げて顔を庇う残りの二人。
決して広くはない部屋の中に、色のない強烈な光が溢れる。
「サ、サイト、二つの宝石を離して！」
チャーリーの言葉に、サイトは慌てて緑色の宝石を持っている方の手を背中に回した。
閃光の洪水は途端に止み、アクアマリンの周囲を丸く包んだ水色の輝きだけが残る。
サイトはゆっくりと手の平を上に向けると、固く閉じていた指をそっと開いて見た。
チャーリーとサースルーンが両脇から遠慮がちに覗き込む。
「…どうやら、タダの宝石ではなさそうだな…」
「で、でも…一体…」
そのとき。
そんな呟きを遮るかのようなタイミングで、三人の頭の中にいきなり声が響いた。
『あ〜ッ、やっと出て来れた！』
「なッ…誰だ？！」
見回すサイト。
『誰ッて、ちょっとちょっと、何大ボケかましてんの。君の手の上にあるアクアマリンに決まってんじゃん』
「えッ…」
『いやあッ、さっきのはノームの宝石だね？
よかったよかった、何たって四大の力を持つ宝石が近くに来ない限り、ボクはずーっとちょっとキレイなタダの宝石のまんまだかんね。これでやっと八つの宝石の一つとしての立派な力が目覚めたってワケだ！
よかった！』
ボーイソプラノの可愛らしい声が明るく頭の中で笑う。
「それじゃ、このアクアマリンは、間違いなく…」
『うん、そうそう。『闇』を封じる八つの石の中の一つ。君が生まれて、海から流れ着いて、この城に来るまでの間フツーの人がさわれたのは不思議だって言うんだろーけど、それはさっき言った通り。あんときはタダの宝石だったんだから。でもっこれからは違うぞぉ、これからは世界を守る八つの宝石として、ちゃんと…』
「…サイト、それちょっと黙らせて」
額に手を当てつつ言うチャーリー。
「だ、黙らせてと言われましても…」
「ずいぶん明るい宝石の精霊だな」
サースルーンもさすがに少し呆れ顔だ。
『ねえねえ、ところでさあ、八つの内のいくつ集まってるの？』
「えッ…まだ二つだけど…」
『まだ二つ？ アクアマリンを入れて？ う〜ん、先は遠いね、頑張らなきゃねえ。まっ、だったら言っといてあげるけど、四大が管理している宝石以外の石…つまり、三つね、それは普通の人間でもさわれるしあんまり普通の物と変わってるワケでもないから、見た目分かんないし、それに四大の宝石を近づけるまではこんな風に喋り出したりもしないタダの石だかんね』
「じゃあ近づけなきゃよかった」
無意味に多弁な奴は嫌いなチャーリーである。
『やあ、厳しいなあ。あはははは』
サイトの守護石とは思えない宝石だ。
「…まあ、何にしても二つ目があっさり見つかってよかった」
「そうですね」
「次は王様の言ってた王家の洞窟をあたってみるとして…」
「では、そろそろ下へ戻ろうか」
☆
食堂に戻ってみると、ヴァシルがまた何か食べている。
突っ込む気も失せて転じたチャーリーの視線の先に、ふてくされてテーブルの上に指でのの字を書いているコランドの姿。
「どうだったでござるか？」
トーザが椅子から立ち上がって尋ねる。
「やっぱ八つの内の一つだったよ」
「これですよ」
サイトが手の平にアクアマリンを載せて差し出すと、途端にコランドが勢いよく立ち上がって走り寄って来た。
「へええッ、こらまた見事なアクアマリンですなァ」
「どれどれ…ほ〜、綺麗なモノでござるな」
「オレにも見せろよ」
とりんごをかじりながらやって来るヴァシル。
「アンタ、それどっから取って来たのよ」
「へ〜、キレイなもんだなぁ。なあ」
「………」
もうどーでもいいや。
「あの〜…ちょっとよろしいでしょうか」
突然、聞き慣れない声がドアの方から聞こえて来たので、皆驚いて一斉に向き直った。
いっぺんに振り返られてもっとビックリした顔で一歩後退ったのは、昨日チャーリーとサイトを出迎えた二人の騎士のうちの一人、セレイスだった。
…そう言えば、ドアを開けっ放しで話していた。
「どうした、何の用だ」
サースルーンが言うと、
「はい。…その、え〜と、王と皇子にお会いしたいと言うお客様が一人と…」
「ああ、昨日ノルラッティが言っていた吟遊詩人のことだな」
「はい、そういう風に名乗っていました。…それから、昨夜城に連れて来た二人が…」
「どうかしたのか？」
いかにも言いにくそうに頭に手をやっているセレイスの様子を見咎めて、サースルーンがさらに言葉をかける。
「…その、チャーリー・ファインを出せと騒いでますけど…」
思わずくらッとしてしまうチャーリー。
「ははっ、そりゃあいいや。すぐ行ってやろーぜ、チャーリー。面白そうだからオレもついて行ってやる」
「アンタについて来てほしくなんかないッ！ …仕方ない、行くしかないか…ヴァシル達は、王様やサイトと一緒にバードの歌でも聴いといて」
「拙者、バードに会うのは初めてでござる」
「最近は珍しくなりましたからなぁ。せっかくやから、ワイも同席させてもらいますかな」
「オレはチャーリーの方について行くぞ。そっちの方が面白そーだからな」
「ややこしくなるから来なくていいってのに…」
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