第4章−11
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妖精達の宿泊所は三人が十分にくつろげるほどゆったりと広かった。
少し黴臭いが毛布も何枚か畳んで置いてあったし、ユリシアの言った通り保存食も棚の中にちゃんと残っていた。
トロールやアンデッドドラッケンとの戦闘、それに一本道をここまでひたすら歩き詰めたおかげですっかり疲れ切った身体を地面に広げた毛布の上に横にする。
「あ〜…やぁっとゆっくり出来ますなァ」
ごろんと寝転がるコランド。
転がったままとりあえずブーツを脱ぐ。
靴を履いたままでは何となくくつろげない。
ヴァシルも履き慣れたぺたんこ靴をぽいぽいと放り投げてくつろぎの姿勢になった。
トーザは腰に提げていたカタナを外して手近の壁に立て掛けると、棚に近寄って中から食料を取り出した。
木の実に干し肉に乾パン…乾燥しきった部屋にあったおかげで、保存状態も良好。
湿気さえなければ物は腐らないと思うのだが…三人とも細かいコトにはこだわらない性格だ。
コランドが部屋の片隅で湧き出ている地下水を見つけ、三人とも手の平ですくって喉を潤した。
数時間ぶりに冷たい水を口にして、三人ともようやくホッとした気分になる。
「地上じゃ夕方だって言ってたな…もう夜になる頃だろな」
「わびしい夕食でんなァ…今頃、チャーリーはんやサイトはんはバルデシオン城で豪華なごちそーを食べてらっしゃるんでしょーなァ」
干し肉をはみはみとかじりつつコランドがボヤく。
「まあまあ、コランド殿」
「オレ達も明日しこたま食わせてもらやいいじゃねーか」
乾パンをぱさぱさと口にしながらヴァシルがぼそッと呟いた。
何げなさを装っている中にも少し怒っている。
コランドの言葉を聞いた途端チャーリー達がうらやましくなってきたのだろう。
ヴァシルのそんな変化には気づかぬ様子で、
「それもそーですな。…ワイはお城で食事なんかよばれたコトなんてないんでっけど、あーゆうトコのメニューッちゅうのはどんなんが出て来ますのん?」
「う〜む…まず、鯛の刺身が出て来る」
「タイ? 刺身ゆーたら生魚ですな…善竜人間族はシーフード好きですからなぁ」
「その上にカッシュナッツとコーンフレークとごま油とソイソースをぶっかけて食べる直前にざくざくかき混ぜて味をなじませるんだ。あんときの鯛、イキが良くてうまかったよな、トーザ?」
「そうでござったな…一年前に、それも一度しか食べてない物のことなんかよくそんなに覚えてるでござるな」
「それからほたて貝のワイン蒸しだろ…シーフードピザとか…車海老のディープフライ…そーだ、あれは辛かったなー、オリーブ油で炒めて、たかのつめとかガーリックとかで味つけした、山菜とベーコンの入ったスパゲッティ。辛かったけどうまかった」
「どうして具まで覚えてられるんでござる?」
「あと、あのいかの入ったフィッシャーマンズドリアとか、ミックスシーフードグリルとか…」
「見事に魚介類関係ばっかりですな…」
「───ああッ、もうやめよーぜ! なんか空しくなってきた!
明日は絶対食いまくってやるからなッ! 何があろーとメシ食わせてもらえるまでは動かないからなッ!」
ヤケ気味に言って毛布の上に倒れ込む。
「そうですな、明日は何かおいしーモン食べさせてもらえるでしょうな」
「ま、それを楽しみに…今日は早目に休むことにするでござる」
「そーしようぜ。起きてても無駄にひもじくなるだけだからな…」
そうして、満ち足りない腹を抱えたままヴァシル達三人は粗末な毛布にくるまり、とにかくすやすやと安らかな眠りに落ちて行ったのだった。
第4章 了
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