第7章−6
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「やあ、おはよう、チャーリー」

 扉の真正面にあたる位置にある椅子に座っていたサースルーンが、口元に運びかけていたコーヒーのカップを途中で止めて、明るい声で言う。

「おはようございます」

 戸口に立ったままで応じる。
 何となく全員の目線がチャーリーの右腕に向けられる。

 腕はちゃんと元に戻っていた。
 ただ、左手には嵌めている指抜きの黒い手袋がこちらにはない。
 食事のときも寝るときもしつこく着けているそれがないと、ヤケに手の白さが目について、特にトーザとヴァシルは妙にドキッとした。
 彼女の素手は長らく見たことがなかった。

 皆が見ているのに気づいて、チャーリーは右手を挙げてひらひらと振ってみせる。

「この通り、腕は元に戻りました。ただ、手袋にまでは気が回せなくて」

 わずかにふてくされたような表情で言う。
 手袋をなくしたことが少なからず残念でならないようだ。

 腕を取り戻すだけで精一杯だった───か。
 暗黒魔法の恐ろしさを思い知らせるような底冷えのする感情に心の中で嫌なものを感じつつ、それでも常と変わりなく快活にサースルーンは口を開く。

「あとで似たデザインのものを探させよう。それより、朝食はどうする?」

 ノルラッティが慌てて椅子から立ち上がる。
 それを今度はチャーリーが止める。

「いいです、食欲がないから。…それに、この手袋もちょっと特別でね。まっ、黒の指抜き、探してくれるんだったら探しといて下さい。───それじゃ、ヴァシル、トーザ、サイト、そろそろ行くよ」

「よしッ!」

 ぐいっと一息にあけたカップをいささか乱雑に受け皿に戻すと、ヴァシルは勢いよく席を立った。
 続くようにトーザが立ち上がる。

「朝食抜きで大丈夫なんですか?」

 まだ半分以上中身の残っているカップを置いたまま、サイトも椅子から離れた。

「食べたくないときに食べたってしゃーないでしょ。行こう」
「途中で腹減ったって言っても知らんからな」
「…そーゆーコト言うのはアンタだけだと思う」

「それでは。父上、行って参ります」
「うむ。気をつけてな。あまり無理はするな、チャーリーに任せておけ」
「…は、はあ…」
「殴りますよ王様…」

「ま、まあまあ…ほら、もうヴァシルは行ってしまったでござるよ。拙者達も早く行かないと」

 トーザになだめられ、腑に落ちないものを残しながらチャーリー達は食堂を出て行った。

 …父親にほとんど頼りにされていない息子とホワイト・ドラゴンよりもアテにされている魔道士。
 そりゃあチャーリーが変身したサイトよりも強いというのは事実だろうが、それでもああまであからさまに言われるとちょっとムッと来てしまう。

 あの王様、人格者のクセにいっつも一言多いんだよなァ。
 あんな言い方したんじゃ、サイトが気の毒じゃないか。
 そんなことを口の中でブツブツ呟きながら、チャーリーは素肌を晒した右手を顔の前に持って来て握ったり開いたりを繰り返す。

 …完全に元に戻った。
 しかし、精神力の消費は予想以上に激しかった。
 どういうことだろう?

 必要な力の量の目算を誤ったとは考えにくい。
 ガールディーの暗黒魔法は言い伝えられているものより強力なのか?
 それとも、伝説の方が間違っていたのか…どっちにしろ、『闇』の中に手袋を置いて来なければ腕を引き抜くことが出来なかった。
 あれ、わりと気に入ってたのに、もったいないコトしたな…。

 まぁそれはいい。
 城に戻って来たら、サースルーン王に神聖魔法の呪文を教えてもらおう。
 使えるかどうかは分からないけど、お守り代わりにはなるだろうから…。

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