第7章−5
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 サイトが食堂に来たときには、すでにトーザが一番扉に近い場所にある椅子に腰掛けて皆が来るのを待っていた。
 コランドがやって来たときにはラルファグとマーナがそこに加わっていて、礼拝堂の朝の清掃を終えたノルラッティと廊下で会ったサースルーンが来たときには、寝足りない顔のヴァシルがどこから取って来たのか分からないりんごをかじりつつそこに混ざっていた。

「皆揃っているようだな…と、そうでもないか。チャーリーはどうした?」

「まだ一度も顔を見せてないでござる」
「しつこく寝てるんじゃねーの?」
「ワイらよりもずっと先に寝たのにでっか?」

「私、部屋を見て来ましょうか?」

 席を立ちかけるノルラッティを、サースルーンが片手で制する。

「いや、チャーリーが来ないうちに朝食を終えてしまおう。椅子が足りない」

 …確かに、昨日のチャーリーの席にノルラッティが座っているので、テーブルの周囲には余分な椅子は一つもなくなっていた。
 食事に来て自分の席がないとなるとチャーリーはきっと機嫌を悪くするだろう。
 そうならないためには、誰か一人が手早く食べ終えて食堂を出ていなければならない。

「ですから、私は礼拝堂で結構ですと申し上げたのですが…」

「いいんじゃないか、別に。空席があるよりマシだよな」

「んなコトどーでもいいから早くメシにしよーぜ。今日あの島へ行くって言い出したのはアイツなんだから、ほっといても起きて来るだろーよ」

「ヴァシルの言う通りだ。先に朝食を片付けてしまおう」

 かくして朝食に遅れたチャーリーの存在はきれいに黙殺され、満足のいく味かつ適当な量の、早朝に相応しい料理がてきぱきとテーブルに並べられ、楽しいぶれっくふぁーすとが始まった。
 こうした席で一番喋って然るべきのコランドは夢見が悪かったとかで冴えない顔をしていたが、その代わりのようにマーナが色々よく話した。
 子供っぽく頼りなさそうな外見とは裏腹に、彼女は様々な場所を放浪したことのある根っからの旅人で、言葉を操る職業たるバードだけあって、各地で経験した珍しいことを面白おかしく脚色する話術にも長けていた。

 食堂にいる皆が知らず知らずのうちにマーナの話に引き込まれており、いつの間にか朝食の皿は空になっている。
 それでもなおマーナは喋り続ける。

「…それで、そんとき一緒にいた騎士さんが、魔道士さんと取っ組み合いのケンカになっちゃってね、でもまァめんどくさいからいいかって誰も止めないで放っておいたらね…」

 皆が熱心に聞いてくれるのでマーナはますます饒舌になる。
 すっかりいい気分になって、息継ぎも忘れてしまったかのような勢いで言葉を重ねる。

 …と、ノックもなしに食堂の扉が開かれた。
 一同の視線が集まる。
 立っていたのは、当然チャーリーである。

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