第1章−4
(4)
「世界最強の魔道士が、すなわち、世界で一番強い奴ってコトだ」
食事中、ガールディーは唐突に七つのチャーリーに向かって自慢げに言い出した。
「どんなに鋭い斬れ味をもつ剣だって、どんなに高い守備力を誇る盾や鎧だって、魔法の前にはひとたまりもない。そりゃまァ、全身ミスリル装備で固めてるような奴には、多少は手こずるかもしれないが、勝てないコトはない。ミスリルには火炎の魔法だ。ミスリルそのものを溶かすのは骨が折れるが、着けてる奴を蒸し焼きにするコトくらいは出来るだろうぜ」
ガールディーは唇を歪めてクックッと悪党っぽく笑って見せた。
チャーリーはじッとその様子を見つめている。
食事する手は止めずに。
「いいか。魔道士は『選ばれた人間』だ」
不意に、ガールディーは見る物すべてを射竦めてしまうような鋭い目つきになると、押し殺したような低い声で呟いた。
チャーリーは黙ったままだ。
返事をしてもしなくても、ガールディーは同じことを喋る。
毎回毎回、正確に繰り返す。
「本来ならば人間の意のままにはならないハズの自然の力を、コントロールする能力を持っていることが何よりの証拠だ。《オレ達》は他の奴らとは違う、『選ばれた人間』なんだ」
チャーリーは何も言わない。
まだ幼い彼女には、ガールディーの言っているコトは完全には把握出来ていなかった。
だから、口を挟んだりはしない。
それに、ガールディーのこの独り言には、まだ続きがあるのだ。
「それじゃあ、何故俺達魔道士が『選ばれ』、『能力』を与えられたのかだ。『魔法』はそもそも、何のためにあるのか───」
ガールディーは、知らず演説口調になってゆく。
「それは、俺達に使命があるからだ。その使命とは───『魔法』の力を駆使し、世界の秩序を保つこと。…もし自然界のバランスが崩れるようなことがあれば、魔法の力で矯正し、もし人間達が戦争を始めたりしたならば、魔法の力で出来るだけ早く決着をつけさせる。歴史の中で、どれだけ長く平和を保てるか。何事も起こらなかった時代には、良君よりも、凄腕の魔道士がいたもんだ。戦乱や天災が続くような時代には、ロクな魔道士がいない」
いい加減あきあきしたような目で、ガールディーの前の冷めきったスープなど眺めている弟子にはお構いなしに、彼は喋り続けた。
「要するに、その時代の世界最高の魔道士の肩に、世界の平和がかかってるってコトだ。本当なら、王よりも尊敬されていい職業なんだぞ、高位の魔道士は…」
☆
世界最高の魔道士が世界の平和を守る…か。
今考えてみても独創的な思想だよなぁ。
リキュート山の中腹、グリフォンが住処としている洞穴群までそう遠く離れていない、ほこりっぽい砂利道を歩きながら、十七歳になったチャーリーは考えていた。
世界大戦を起こすだなんて───先生が一番しそうにないコトじゃないか。
確かに、あのヒトは金には汚かったしアル中の一歩手前だったしギャンブル狂だったし、反面教師以外の何者にもなれないような人だったけど…。
けど、一方では、世界の秩序と平和を重んじ、正義と友情を良しとする崇高な思想も、持ってたんだ…私にはちゃんとわかってる。
あんな噂、全部でたらめに決まってる。
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