第1章−10
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「魔道士の力を封じる粉? 魔法が使われへん?」

 コランドが戸惑った瞳で二人の魔道士を見比べる。
 顔を上げ、チャーリーはコランドの方を見た。

「ガールディーのマジック・アイテムだ。私は当分魔法が使えない…コイツの狙いはどうやら私だけのようだから、命が惜しかったら逃げるんだ」

 チャーリーは追いやるような仕草でもってコランドに出入り口の方を示す。
 彼は少しだけそちらへ行きかけたが、思い直したように踏みとどまった。

「ワイが逃げて、そんで、チャーリーはんは…どないしますんや?」

「どうするんだろうね、一体」
 まるで他人事のように、チャーリーは言ってのけた。
 まさか魔法を封じられるとは夢にも思わなかったから、巻物は一本も持っていない。
 武器も持っていない。
 今攻撃されても、反撃する術も防御する術もない。
 ハッキリ言わなくても絶体絶命なのだが、彼女の顔にはまったく動揺が見られない。
 相変わらず、ヤケに自信のありそうな態度でレフィデッドを見つめ続けている。

 …本当に自信があるワケではないというのは、一目見れば分かる。
 あれだけ高飛車に出た以上今さら取り乱すのもカッコ悪いから、魔法を封じられたことなど何でもないような顔をして見せているだけなのだ。
 それが盗賊であるコランドに見抜けないワケがない。

 彼はこのまま逃げていいものかどうか迷っている。
 ロクな魔法の使えないシーフが王都の魔道士(レフィデッドの言うことが本当だとしたら、だが)に太刀打ち出来るハズがないのは分かり切っているのだが、今ここでチャーリーを見捨てて逃げてしまう気にもなれない。
 損得勘定を第一にする小心者ではあったが、コランドは卑怯者ではなかった。

「構わずに逃げた方が身のためだ」

 レフィデッドが立ちすくんでいるコランドに冷たい声をぶつけた。
 その言葉に押されるように、コランドの足が動く。
 彼は意を決したようにチャーリーの前に出ると、腰に提げたショートソードを抜いた。

「コランド…」

 チャーリーが心底意外だ、といった顔を向ける。

「世界一の大魔道士に恩を売れる機会なんか滅多にありまへんからな」
 口調は軽いが、表情は真剣そのものだ。

「…バカな真似をする」
 レフィデッドが肩の高さまで両手を上げる。
 手の平で球を作るような手つき。
 一際大きな炎が燃え上がった。
 白熱した炎…恐るべき高温だ。
 当たれば大火傷どころの騒ぎではすまないだろう。
「一度にカタをつけてやろう。覚悟するんだな」
 白い炎が揺れる。

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