第3章−6
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「いやあ、お強い!」
二人の所へ走り寄って来るなり、コランドはそう言った。
今度ばかりはお世辞でもへつらいでもない、彼自身の本当の感想のようだった。
「トロール三匹を、たった二人で、あんな短時間で!」
「いや、拙者はほとんど何もしておらんでござるよ。ほとんどヴァシルが一人で片付けたようなモンでござる」
「トーザはオレに遠慮したんだよな。お前なら、オレが攻撃するより速く三匹とも斬り伏せられたハズなんだから」
「二人とも、ホンマに噂に違わぬお強さで。この分やったらこの先何が出て来ても安心ですなァ」
「まァそーいうコトだ。トロールの十匹や二十匹ぐらい、いつでもどこでもどーんと来いってんだ」
ヴァシルが胸を張る。
それをやれやれといった笑顔で見ているトーザ───の表情が、不意に引き締まった。
不審げな視線を洞窟の奥に向ける。
「どうした?」
ヴァシルが問う。
「今、誰か奥の方へ走って行きましたで」
質問にはコランドが答えた。
盗賊である彼の耳もまた、トーザが聞きつけたのと同じ遠去かる足音をキャッチしたらしい。
「誰か? ここに他に人間がいるってのか?」
「少なくとも魔物の足音ではなかったでござる」
「かなり小柄な人間ですわ。もしかしたら、子供かも…」
「子供? …子供がこんなトコにいるわけねーだろ?
大体、明かりもつけずに…」
「暗視魔法の巻物を使ったんかもしれませんで」
「暗視…」
闇の中でも普通と同じ視力・視界を保つことが出来る魔法。
「ありうるな…よし、追いかけるぞ!」
三人はトロールの死体が転がっている場所を離れ、足音が去った方向へと走り出した。
足元の起伏につまづいて転んだりしないように、十分気を配りながら。
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