第3章−10
(10)
「おッ…」
小さく声をあげる。
まだ地平線の向こうに霞んではいるが、遠くからでもそうとわかる。
善竜人間族の居城、バルデシオン城だ。
邪竜人間族がエルスロンム城を中心に閉じられた城塞都市を形成しているのとは対照的に、善竜人間族はその城のまわりに開かれた城下町を広げていた。
他種族との交易も活発に行われているし、旅行者もよく訪れる。
文化的でいい街だ。
チャーリーはそう思っていた。
善竜人間族そのものの象徴のような街だと。
大勢の旅人が訪問し、その度に住民は最大限の誠意と歓迎の心でもてなすが、冒険者がこの街で長く過ごすことは少ない。
住んでいるのは、バハムートと、ほんの数人だけの物好きな他種族。
…賑やかで明るいけれど、何となく孤独な街だ。
…いや、これは私の考え過ぎなのかもしれない…私は必要以上に、善竜人間族を被害者として見てしまっているのかもしれない。
何故自分が善竜人間族に対して同情的なのか、チャーリーにはハッキリとした理由は分からなかった。
何か近いものを感じているから、だろうか。
頭の片隅でそんなことを考えた。
そのとき、バルデシオン城の方から緑色のドラゴンが二匹、こっちへ向かって飛んでくるのが目に入る。
緑色の飛竜…騎士階級のバハムートのお出迎えだ。
第3章 了
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