(6)
ジール・シフ・レセイア・エーシャ。
琥珀色の瞳の青年、両親は既にいない、ただし五年前に野盗に殺されたのではなく、彼は自分の両親がどんな人間だったのかを知らない。
世界の歴史が始まる前、想像を絶するような遠い遠い昔、唯一の『神』リュウド・サザナミは影の一部を討ち漏らした。
語り手ローゼにさえ伝えられていない影達の歴史が、そこから始まる。
大きな街の片隅で貧しくも荒んだ暮らしを送っていたシフはあるとき影の一族に拾われ、影達に育てられるようになる。
影は彼にあらゆる武器の使い方を教え、様々な殺し方を教え、シフを一人前の暗殺者に仕立て上げた。少年ながら指示されるまま『権力』を持つ者達の数人を始末してみせたシフの実力を影達は高く買い、その腕を見込んでシフに最も重要な任務を任せることにした。
語り手と、語り手の住まう村を消し去ること。
それもただ一方的な暴力に晒して葬り去るのではなく、村人全員に深い絶望と苦しみを味わわせてから。それから一人残らず片付けてしまうこと。
炎と喧騒の中で行き会う村人達、怯え逃げ惑う彼らに、シフは言った。
この騒動の中でもよく聞こえるように、はっきりと。
彼らの誰も聞き逃したりはしないように、何度も何度も繰り返して。
ローゼは自分が殺した。
自分は影の仲間。
ローゼを殺すために彼女に近づいた。
ローゼを殺すためだけに彼女に近づいた。
南東の村を滅ぼしたのは影達。
自分はその騒ぎを利用して、この夜のためにこの村に入り込んだ。
ローゼは悲しんで苦しんで、泣きながら死んでいった。
お前達の大切なローゼ、大好きなローゼは、たった一人、恐怖と絶望にまみれて死んでいった。
村人達の怨嗟の声を、血を吐くような罵りの言葉を浴びながら、シフは村人達を淡々と屠っていった。
一人も逃がすつもりはなかった。
たとえそれが足腰の立たない老婆であっても。
たとえそれがまだ目も開かないような赤ん坊であっても。
シフと影達は一方的な殺戮を続け、すぐに肝心のローゼが村の中にいないことに気づく。