第2章−6
        
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「どーするんでっか? この死体…」

 シチューを木のスプーンで口に運びながら、コランドが言う。
 チャーリーの肩を借りてやっとのことでテーブルにつき、かなり遅目の夕食を大喜びで食べ始めた彼だが、視界にチラチラと入って来るレフィデッドのことが気になって仕方がないようだ。
 だからと言って食欲をなくしたりはしないようだが。

「どーするって…そうだな、後でちゃんと葬ってやらないと」

 割ってしまったシチュー皿の代わりにサラダボウルに入れたシチューを、ただ何となく口には運ばずにスプーンでかき回していたチャーリー、気のなさそうな様子で答える。

「えらいアッサリ死んでしまわはったみたいでっけど…いくら急所に当たったからゆうて、あの程度のダメージで人間て死ぬモンなんですかね?」

「呪文を選んでる余裕なんてなかったじゃないか」

 チャーリーはスプーンをシチューに入れたままにして立ち上がると、レフィデッドの死体に歩み寄り、つま先でその身体を仰向かせるように転がした。
 何気なく目をやって、コランドは思わず息を呑んだ。
 氷片が刺さった傷口のまわりが、はっきりそうとわかるくらいに真っ白く凍りついていたからだ。

「あの炎を打ち消すにはあの魔法しかなかったし…あの魔法には、周囲の大気を急速に冷却して火炎魔法をしばらく使えなくする効果があるから、一番あの状況に適してると思ったんだ…冷却すると言っても、気温に変化はないんだけど」

「ど…どないなっとるんですか? コレは…」

 さすがに食事する手を止めて、コランドは恐る恐る尋ねる。

「氷片のつけた傷口から全身に凍傷が広がるようになっている。敵の身体細胞のすべて…血液までも凍てつかせるんだ。あんまり血が出なかったのは、凍っちゃってたからだよ」

 何でもないコトのようにチャーリーは言い、それから呟く。

「本当に呪文を選んでられなかったんだ」

 チャーリー・ファインが人を殺す魔道士ではないことを、コランドは知っていた。
 魔道士の中には、自らの力でもって殺人を請け負い莫大な報酬を受け取って生活しているような奴もいたが、決して相手の命を奪おうとしない者もいるのだ。
 チャーリーの場合、話し合いの通じない魔物は遠慮なく倒したが、今まで人間を殺したことはなかった。
 相手が死ぬ半歩手前まで痛めつけたことはあっても、殺したりはしなかった(もっとも、その相手は「いっそ殺してくれ!」と泣き叫んでいたのだが)。

 彼女がひどくショックを受けている様子なのを見て、コランドはまたチャーリーのことが気の毒になった。
 チャーリーがコランドに抱いていたイメージが全然違ったように、彼の『世界最強の魔道士』のイメージもまた、実物とはあまりにも違い過ぎていた。
 だから余計に、チャーリーに対して気を遣ってしまう。
 遣わなくてはいけないような気分になってしまうのだ。
 だから、わざと明るい口調で言う。

「まァ、それはもう済んだことですからな、気にしてもどうにもなりまへんわ。あんときはこっちが圧倒的に不利やったんですし、相手も油断しとったからこないな結果になったワケですし…ま、そいつが油断しといてくれへんかったら、ワイらが危なかったんでっけど」

 チャーリーが顔を上げてコランドを見る。
 コランドは少しだけ口を閉ざし、それから真っすぐ彼女の方を向いて、言った。

「ワイはチャーリーはんが悪い人やないて知ってますから」

「…ありがとう、コランド」

 チャーリーは小さな声で言うと、自分の椅子に戻ろうと歩きかけた。

 そのとき、突然ドアが勢いよく開いた。
 ビックリしてそっちに目をやるチャーリーとコランド。
 二人の前に現れた人物の顔を見て、チャーリーはもう一段階驚いた。

「ヴァシル…!」

 どうしてこんな所へ、どうやってここまで来たの、そう続けるよりも早く、ヴァシルは家の中へ入って来た。
 なんだかモノすごく怒っているようなカオで、つかつかつかッとチャーリーの真ん前まで歩いて来る。

「な…何? どーしたの?」

「チャーリー!」
 ヴァシルは大声で言ってバンッとテーブルを叩いた。
 コランドがビクッとなってスプーンを取り落とす。
 ヴァシルはチャーリーの顔を真っ正面から見据えて、やたらハッキリと言い放った。

「腹、減った!」

「ア、アンタねぇ……」

 チャーリーは脱力感を覚えて床の上に座り込んだ。

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