第16章−7
       
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 ハーストレア、クレイベルク、イラルド───青い鎧を着けた三人の善竜人間族は、アシェスとカディスに向けた敵意を完全には消さぬまま、それでもサースルーン王直筆の手紙の前にそれ以上の追及をあきらめて、フェデリニに戻って行った。

 ドラゴンのブレスでの襲撃を受けて荒廃した港町には、しなければならないことがいくらでもある。
 それに、人間族の町が邪竜人間族の攻撃を受けたとあれば、近隣の街やバルデシオン城から少なくない数の善竜人間族が駆けつけて来るだろう。
 ハーストレア達には自分達が目撃したことの逐一を報告する義務がある。
 彼らにとっては長い夜になりそうだ。

 ジルとジェンに意味深な目配せをして、コランド、ラルファグ、ティリアに非礼を詫び、アシェスとカディスには意識的に顔を向けないようにして、彼らは去った。

 非常に大人げない対応であるが、目の前で平和な港町を襲った奴らの仲間を−アシェス達にどのような事情があれハーストレア達にはやはりそうとしか思えない−見逃すしかないという状況は、元来正義感の強い善竜人間族にとっては耐え難いものだろう。

 …三人の善竜人間族が目の届かぬところまで行ってしまうのを待って、コランドとラルファグはどっと疲れが出たように肩を落とし、深い深いタメ息をついた。

「はあ〜、やりにく…」
「まったく、バハムートはアタマが固すぎる」

 思わずそう呟いてしまってから、その善竜人間族がその場にまだ二人もいるのに気づき、慌てて口を閉じる。

「…まッ、ハースティは仲間内でも頑固者で通ってるもの。とっつきにくいのは確かよねー」

 気分を害した風もなく、ジルが腕組みしつつ言う。
 うんうんと訳知り顔でうなずいてみたりしながら。

 ついさっきジェンが毅然とした態度で別人のような台詞を述べていたときにはただ目を真ん丸に見開いて黙り込んだまま固まっていたのに、もういつもの自分を取り戻したらしい。

 そんなジルの少し後ろで、ジェンもまた本来の彼女に戻ってしまい、先程の堂々たる態度が悪い嘘であったかのように周囲を見回してはおろおろしている。

「さて! それじゃっ、善竜人間族随一の魔道士と呼び声の高いこのジル・ユースと、同じく善竜人間族屈指の強さを誇る剣士のジェン・ユースが張り切ってアナタ達のお供をするわよ!」
「ジルちゃん…わたし達、そんなすごい肩書き、ついてないよ…」
「しっ! ジェナ! こーいうのは最初が肝心なのよ! ナメられないためには多少のハッタリも必要!」
「ワイら別にナメたりとか」
「アナタ達は確か『罠の洞窟』に向かってるんだったわね?」
「はあ…まあ、そうでっけど」
「だったら! こんなトコでグズグズしてる手はないわよ!」
「いや、ワイらは別にグズグズしとるワケや」

「よおっし、ラフニー山脈、一気に越えるわよッ! アナタ達、飛行魔法は使えるの?」

 コランドに口を挟む隙を全く与えずに、と言うかヒトの話に全然耳を貸さずにまくしたてるジル。
 その勢いに押されるまま、アシェスとカディス以外の三人が首を左右に振る。

「じゃっ、あたし達が運んでってあげるわ。ドラゴンの翼なら『罠の洞窟』もアッと言う間よ。ジェナ、行くよ」

 ジルとジェンはコランド達から離れた場所まで歩いて行くと、それぞれ竜に姿を変えた。
 緑色のウロコを持つドラゴンが二頭現れるかと思いきや、二人が変身したのはあざやかな青いウロコの竜であった。

「青い竜!」
 ティリアが驚いた声をあげる。
「混血やな。片親が人間族なんやわ」
 コランドが説明してやる。

 ジルとジェンの背に分乗して、コランド達は夜の中『罠の洞窟』を目指す。

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