第16章−3
(3)
二人が門を出ると、待ち構えていたコランドがすぐに声をかけて来た。
「アシェスはん、ようご無事で! …カ、カディスはんは?」
「カディスは敵の注意を逸らすために戦ってる…よ?」
指差したラルファグだが…どうもカディスの姿が、見当たらないような。
と思っていたら、ドラゴンの群れが何と町を攻撃し出した。
炎、氷、雷撃、種々のブレスが容赦なく町に降り注ぐ。
「…!!」
信じられない光景だ。
コランドとラルファグの思考が停止した、直後。
アシェスが飛行魔法で上昇した。そして、邪竜人間族に向かい怒鳴る。
「貴様ら、オレはここだ! 捕らえてみろ!!」
「アシェスはん…ッ」
コランドが呼びかける…よりも早く。
アシェスの身体を中心にして球形の衝撃波が飛んだ。
地上にいる二人は咄嗟に腕で目を庇うようにして姿勢を低くしたが…少しの間、全身に叩きつけられた波動のあまりの凄さに動くことが出来なくなる。
「………」
コランドが恐る恐る見上げた先に───予想通り、『闇』の竜が浮かんでいる。
漆黒よりもなお深い黒をまとった、『ダーク・ドラゴン』。
言葉で表すとブラック・ドラゴンと大差ないように思えてしまうが、実物同士を比較すると違いは歴然としている。
普通の邪竜人間族に与えられたのはただの『黒』。
同じ種族でありながら王家の血筋に許されたのは───真の、『闇色』───。
ダーク・ドラゴンが翼を広げる。
真紅に燃え上がった瞳が暴虐の限りを尽くしている同族達に向けられる。
そして、『闇』の竜が───吼える。
魂を貫くようなその咆哮。
しかし、黒竜達は恐怖に竦み上がるどころかむしろその雄叫びに刺激されたかのように、すぐさま攻撃目標を町から新たに出現した『闇』の竜へと変更した。
カディスにそうしたように、何頭もの竜が一斉にアシェスに飛びかかってゆく。
闇色の竜は素早い動きで敵の下方に回り込んだ。
巨大な身体を器用に捻って、仰向けの状態からブレスを吐く。
その鱗と同じ、『闇』を具現したブレス。
漆黒は敵集団をすっぽりと呑み込み…そして、内に包み込んだものもろとも消え去る。
あとには何も残っていない。
数頭、確かにいたハズのブラック・ドラゴンは『闇』により消滅させられたようだ。
「すッ…すげぇ、あのブレス! 当たったモノを消しちまうのか…!」
「さすが、ドラッケンの王家の竜…!」
コランドとラルファグが見守る前で、アシェスは体勢を立て直し、再び竜の群れに向かって吠える。
挑発の響きを明らかに感じさせるその咆哮に誘われて、また数頭の竜が飛び出した。
次は『闇』のブレスに一気に捕まってしまわないよう、個々が展開してバラバラの方向から攻める。
アシェスはブレスを使わず、手近の一頭に突っ込んでゆく。
腕を伸ばし、尖った爪で相手の首を捕らえ、そのまま振り抜いた。
竜の首が引きちぎられる。
「!!」
ドラゴンに変身しているとは言え、常識外れた腕力だ。
と、次の獲物に狙いを定めようとしたアシェスを、背後に迫っていた黒竜の吐いた炎が直撃した。
───が。
ファイア・ブレスは闇色の鱗に弾かれアシェスには何のダメージも与えられていない。
怯んだその竜に向き直り、アシェスが今度は『炎』を吐く。
白熱した炎をマトモに食らった黒竜は瞬時に炭化して絶命し、黒焦げになった人間の死体が地面に落ちて来た。
☆
「すげぇ…レベルが違うぜ」
「…ラルファグはん、ここにおってもワイらに出来ることはもうあらへんみたいやし…罠の洞窟の方へ行きましょか。このぶんやったら、アシェスはんが全部片付けてくれますやろ」
「…そうだな。その洞窟、ここから近いのか?」
「いや、途中で山越えて行かなあかんのですけど、カディスはんが…」
「…いないぜ」
「そっ、そうやった! 先に助けに行かんとッ…」
コランドが思い出したように慌てたとき。
「…お前ら、オレを置いて行こうとしてただろ」
「わああッ?!」
いつの間に忍び寄って来ていたものやら。
長い前髪に顔の半分近くを隠した邪竜人間族の盗賊、カディス・カーディナルがそこにいた。
「すッ、すんませ〜ん! 迷わず成仏したって下さ〜い!」
思わず両手を合わせて拝むコランド。
「勝手に殺すなッ! 確かに死にかけたがちゃんと生きてる。彼女が助けてくれたんだ」
カディスが示した先に立っていたのは…白金の髪をポニーテールに結った背の低い少女。
「だぁッ! せっかくまいたと思うたのに〜!」
コランドがいきなり悲鳴じみた声をあげる。
「ふんッ、甘いわよ! 大体怪我した仲間を放って行こうなんて盗賊の風上にも置けないのよ、アンタは」
「? 誰だ?」
ラルファグがきょとんとした表情でコランドと少女を見比べる。
「私の自己紹介は後よ! 罠の洞窟に用があるんでしょ、急ぎましょ! 大丈夫、追って来られるような状況じゃないわ、あの黒竜達」
初対面の人間−しかも、おそらく三人のうち誰から見ても年下−に見事に仕切られてしまうコランド達である。
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