第16章−5
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コランド達が目指す盗賊の洞窟は港町フェデリニの南東にある。
最高峰のアリバール山にのみ名前が与えられた世界最長の山脈、ラフニー山脈。
その真ん中よりもやや東寄りに位置する、他の山々よりも傾斜がきつく木々が鬱蒼としている山の中腹に、その洞窟は口を開けている。
混乱が続くフェデリニの町を出たコランド、ラルファグ、カディス、ティリアの四人は、細い道をラフニー山脈の方角目指して走っていた。
盗賊の洞窟まで徒歩なら約三日の行程である。
走って辿り着ける距離では当然ないし、夜間に山を越えることは危険だったが、今は一刻も早く町から離れるべきだと、誰もが考えていた。
邪竜人間族の増援が来るかもしれなかった。
フェデリニの近くでぐずぐずしていては、また町を巻き込んでしまうことになるかもしれない。
それに、ダーク・ドラゴンとなったアシェスが合流して来るにも町から離れた場所の方が都合が良い。
所詮隠し通せぬことだとしても、彼が邪竜人間族の皇子であるということを町の人に見せつけるような真似をするのは得策ではない。
が、ふと空を振り仰いだティリアがあげた悲鳴に、フェデリニからいくらも行かないところで全員が足を止めることになる。
左手方向、アシェスが三頭のグリーン・ドラゴンに追われながら下降して来る。
地上を目指してはいるものの、仲間達の姿に気づいている様子はない。
「皇子ッ! 皇子───ッ!!」
カディスが叫び、道を外れてアシェスのもとへと駆け出した。
幸い道の左右は丈の低い草が風にそよいでいるだけの平坦な草原だったので、カディスは障害物に邪魔されることもなくアシェスの降下地点目指して全力疾走することが出来た。
残りの三人も一拍遅れで走り出す。
追跡して来るグリーン・ドラゴンは今にもブレスを吐きそうな様子であったが、近づいて来るカディス達の姿を認めると、人間の姿に戻った。
倒れ込むように地面に降り立ったアシェスを、ちょうど駆けつけたカディスが素早く背中に守る。
カディスは目の前に立った三人の善竜人間族をキッと睨み据えた。
緑色の瞳が明確な敵意と怒気をはらんでカディスを睨み返す。
善竜人間族は三人とも青い鎧を身に着けていた。
その場の緊張が一気に高まったところへ、コランド達が到着した。
「ちょっ…待った待った待った、ニイさん方、そないな怖いカオせんと!」
コランドは善竜人間族とカディスの間に割り込むと、今にも剣を抜きそうなほど険悪な雰囲気の三人に愛想の良い笑顔を向ける。
「いやいや、どちらさんもまあ落ち着きなはれや。カディスはんも、目つき悪いでっせ! 前髪で見えやんけど…まあまあ、それはともかくとして! ニイさん方、今度のコトには深ぁいワケが…」
「そこをどいて下さい」
コランドがまくしたてる台詞を遮るように、真ん中に立っていた青年がきっぱりとした口調で言う。
三人の中では最年少に見えるが、彼がリーダーらしい。
しかし、コランドは彼の声など耳に入らなかったフリで喋り続ける。
「確かに! お怒りはごもっともでっせ? せやけど、アレはここにおるアシェスはんのせいでもカディスはんのせいでものうて…」
「そこをどいて下さい!」
思いっきり大声を出されてさすがのコランドもぴたっと口を閉じた。
丁寧な言葉で怒鳴られる方があからさまな暴言をぶつけられるよりこたえる、等とどうでもいいようなことを一瞬考えた。
口を閉じはしたものの、コランドはその場を動かない。
「邪竜人間族を庇い立てするおつもりですか?」
善竜人間族の青年は冷えた声で続けた。
その声に、言葉に、込められた重たく冷たい感情。
コランドはまっすぐに彼を見つめ返す。
人間族や狼人間族に対しては好意的かつ友好的な善竜人間族が、邪竜人間族のこととなると途端にまるで別の顔を見せる。
この青年も、普段はとても温厚で礼儀正しい人物だろうと思われるのに。
「落ち着けよ。話を聞け」
横手からラルファグが歩み出る。
ティリアは少し離れたところで、コランドと善竜人間族達とを見比べておろおろしている。
「ロガートの森のラルファグ・レキサス」
狼人間族の族長の息子の名を聞いて、三人の表情が微妙に変化した。
「善竜人間族はアシェスに協力することになっているはずだ。まだ聞いていないのか?」
「何ですって…?!」
そんなことは到底信じられない、と言いたげに青年が表情を歪めた、直後。
「その通りよッ!!」
───頭上からものすごく自信に満ちた声が降って来た。
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