第13章−5
(5)
「誰か雨の中を走ってますよ」
飛行魔法を用いて図書館付近までやって来たチャーリーとフレデリック。
フレデリックの指摘にチャーリーは地上に目を凝らした。
夜の闇に包まれているうえに雨が降りしきっている地上の様子は、ただでさえ視力の悪いチャーリーにはまるでわからなかった。
しかし、夜も遅くにこんな大雨の中を走らなければならない理由のある人間などそういるワケがない。
高度を落として確かめる。
長い髪が重たく揺れて、チャーリー達の姿に気づいた人影が足を止めた。
「そこにいるのは…チャーリーか?」
答える代わりにすぐ前に着地してやった。
思った通り、ヴァシルだ。
濡れネズミの見るも哀れな格好であったが表情は明るい。
「コートさんを見つけたんだね?」
ピンと来てチャーリーは尋ねた。
ヴァシルは大きくうなずいた。
「メールも一緒だ。もう心配ねえよ」
「メールが…? それじゃ余計問題がこじれるんじゃない?」
「なんか知らんが、アイツがきっとコートの知ってるメール・シードなんだろうな。元に戻ってるみたいだぜ」
「元に? それじゃ、私達の知ってる方は?」
「確か…そうだ、精神だけで永遠に生きる種族の一人とか言ってたな」
「はあ?」
ロコツに怪訝そうな顔をする。
ワケがわからない。
ヴァシル、どっかで滑って転んで頭でも打ったんじゃないでしょーね、と訊きたかったがそれは抑える。
ちゃんとした話は後でメールなりコートなりに聞けばいい。
「それより、王城に戻ろうぜ。いい加減カゼひいちまう」
ばさっと前髪を掻き上げる。
乾かすのが大変そうだ。
「アンタは風邪ひかないって」
「まだ言うかお前…」
「まァ、私達に出来ることはもうないみたいだしね。戻ろうか…ん?」
ふと振り向くと、フレデリックがあさっての方を向いて立っている。
それだけならまだしも彼に似合わぬひどく深刻な表情をしている。
ヴァシルも気づいてフレデリックの顔をのぞき込んだ。
「どうかしたか?」
「さあ…?」
首を捻りつつ、なんでもないんじゃないのと否定しかけたチャーリーだったが…直後、表情がガラリと変わる。
一転して険しさと警戒心とに支配され強張った顔で空を仰ぐ。
「何……」
思わず前に出ようとしたチャーリーを、静かに上げられたフレデリックの右腕が制する。
「動くと危険です」
「え?」
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