序章
《序章》

 世界中に不穏な噂が急速な勢いで広まりつつあった。
 誰もその出所は知らなかったが、それは確固たる信憑性を伴って人々に伝わっていった。

 もう、千年以上も争いのない平和な状態に慣れきった世界が震撼するには、十分すぎるほどのインパクトを、その噂はもっていた。

 ガールディー・マクガイル乱心!
 戦闘集団ドラッケンを指揮し、世界大戦を起こす可能性あり!
 すでに、姿をくらまし行動に移っているもよう───。

 邪竜人間族(ドラッケン)は、世界に存在している五つの種族のうち、善竜人間族(バハムートと並んで、戦闘能力の最も高い集団である。
 その血を引く者は自らの意志で自在に巨竜に変身することが出来る。
 特に、代々ドラッケンの指導者的役割を担ってきたリチカート王家の者は、闇夜の漆黒を思わせる体色のブラック・ドラゴンに姿を変える。
 そして、混乱と争乱、無秩序を好む。

 そんな種族が、かつて世界最強最高の魔道士として知られていたガールディーをリーダーとして、全世界を破壊し無に帰すための戦争を始める気でいるという。

 それを裏づけるかのように、魔法の濃霧がドラッケンの本拠地ゲゼルク島を取り囲み、外部からの接触の試みを遮断した。
 相当高位の魔道士でも出現させるのが難しい、魔界の霧が…。

 人々の不安は日増しに強まってゆく。
 そんなおり、『ガールディー乱心』なる噂の真相を究明するために、敢然と立ち上がった者がいた。

 チャーリー・ファイン。
 ガールディーの唯一の弟子であり、師匠の魔法のほとんどを受け継ぐことに成功した、現在世界一の魔道士の座についている少女である。

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